Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

記憶の対価(21)第三者side




「この世界の人間ではない?」

 アルセス辺境伯の言葉にアリサは頷く。
 その様子を見ていたアドリアンは、「この世界の人間ではないというのは、どういうことだ? 」と、声を荒げてアリサに近づく。
 すると、とっさにリンデールがアリサとアドリアンの間に割って入る。

「落ち着いてください。シューバッハ騎士爵殿」
「――ッ、分かっている」

 リンデールに家名で名を呼ばれたことで、アドリアンは我に返る。
 
「アリサ、話を進めてくれ」
「分かりました。これから話をする内容については、此処に居る者の胸の内だけで止めて置くことにしてください」
「よいな? アドリアンよ」

 もっとも話を吐露する可能性があるシューバッハ騎士爵であるアドリアンに、アルセス辺境伯は釘を刺す。
 しばらく、アルセス辺境伯とアドリアン騎士爵が睨み合ったところで。

「約束出来ないのでしたら、一度、天幕から出ていってもらうというのは?」

 リンデールの提案に、アドリアンが「――なん……だと!?」と、呟いた後にリンデールを睨むが、リンデールは肩を竦めたあと。

「軍事行動をしている最中の機密は家族や使用人には話をしてはならない。それは、元・王宮近衛兵であった君なら知っていると思うが?」
「…………分かった」

 アドリアンは、大きく溜息をつくとアリサの言葉に頷く。
 アルスと血の繋がりがあることで、もっとも障害になると思われていたアドリアンが頷くのを確認すると、アリサは口を開く。

「まず、アルスと同調して得た情報をお伝えします。彼は、私達が住んでいるローレンシア大陸とは、まったく異なる別の世界で暮らしていた人間のようです」
「ローレンシア大陸とは異なる世界だと?」
「はい。アルスの記憶から見えた世界――、生まれ育った場所は、鉄の塊が空を飛び、空を貫くほどの高層建造物が存在する世界でした」
「それは……。神代文明時代の記憶ではないのか? そういう物が、存在しているとリメイラール教会が経典で書かれていたが」
「伝承にある神代文明とはまったく異なる世界のようでした」
「なるほど……」

 アリサの説明に、アルセス辺境伯は頷いたあと小さく溜息をつく。
 
「まったく別の世界の人間が……、私の息子……」
「アドリアンよ。ショックを受けているのは分かるが、おそらくアルスは、輪廻転生で記憶が消されずに、そのままお主らの子供として転生してきたのではないか?」
「――ですが!」
「それなら、お主は息子を放逐するのか?」
「……」
「すぐに答えられないのは分かる。だが……、アドリアンよ。お主が、息子を得体の知れない者と見るのと同じように、アルス自身も家族に対して負い目があるのではないのか? それに私は逆に安心した。アルスの持つ知識が、高度に発達した世界の産物であるなら、投石器などの作りについても納得できるものだ。むしろ、子供が投石器などの複雑な図面や運用、粉塵爆発と言った現象を考え付く方が恐ろしい」

 アルセス辺境伯の言葉が一区切りついたところでアリサが地面に片膝をついて「アドリアン様」と、口を開く。

「――なんだ?」

 アリサに話かけられたアドリアンは不機嫌さを隠さずに畏まっているアリサを見下ろしながら苛立ちを含んだ声色で言葉をかける。

「はい。じつは、アルスが何度も同じ時間を繰り返しておりましたのは皆様、知っているかと思われますが……」
「そう……だな……」

 今さら、それが何だ? と言わんばかりにアドリアンは額に手を置いたまま椅子に座る。
 もっと衝撃的な事実を告げられると思っていたばかりに、肩透かしをくらった感じであった。

「実は……」

 アリサが、もったいぶって中々、話を進めようとしないことにアドリアンは苛立ち、何度もテーブルの上を人差し指で叩き始めた。

「早く言え。異世界から転生してきた以上、私がショックを受けることはない」
「はい。実は、アルスは私と婚約しておりました」

 アリサの言葉に、アドリアンが呆けた顔で「――はっ?」と呟き、リンデールとアルセス辺境伯は、一瞬狐に包まれた表情をする。

「……ど、どどど、どういうことだ?」

 言葉にならない声でアドリアンが椅子から立ち上がると、アリサへと問いかける。

「じつは、最初の転生の際に、私はアルスと婚姻を結んでおりまして、その際にアドリアン様や、ライラ様にも許可もらっているのです」
「なん……だと……」
「私も! アルスくんと、そんな感じです!」
「貴女は違うでしょ! 私は正式に! お義父様や、お義母様に許可をもらって一緒に暮らしていたのよ?」
「私だって、アルスくんに大事に思われているもの!」
「……つまり、何か? うちの息子は、魔法師団長アリサ殿と、フィーナとそういう仲だったということか?」
「はい。あとは魔法師団に所属している人間族のアリサにも声を掛けているようですね」
「あの馬鹿は、何をしているのだ……」
「――ですが、アドリアン様は許可を出していましたので」
「記憶に御座いませんではすまないのだろうな」

 深い沈黙が天幕内を包み込んだところで。

「ハハハハッ、これは愉快だ! アルスには孫娘を嫁がせる予定なのだぞ! まさか他に嫁候補が2人も居るとは思わなかった。アドリアン! どうするつもりなのだ?」

「わかりました。まずはアルスに誰を選ぶか決めてもらいましょう」
「ふむ。だが、御主は先ほど息子に関しては放逐するような話をしていたが? 責任はとらないのか?」
「……アルスも異世界から記憶を持って転生してきたのでしたら、立派な一人の男でしょう。責任はアルスにあると思われますが――」

 額から汗を流しながらアドリアンは答える。
 
「ふむ。それなら、問題なかろう。最悪、アルスは我が辺境伯に婿入りしてもらってもいいと思っている。私としては放逐してもらった方が楽でいいのだが?」
「それは……、ライラが――」
「――で、あるな。それなら分かっておるな? これからもアルスについては、今までどおり対応するのだぞ?」
「わ、わかりました……」
「――して、アリサ。お前は、どうするつもりなのだ?」
「私は……、アルスときちんと話をしたいと思います」
「分かった。それでは、あとは城から持ち帰った本についてであるな」
  
 
 

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