Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~
会議の方針(4)
「まず、Bブランですが大量の小麦を用意してもらうことになります」
「小麦? 炊き出しでもするつもりなのか?」
「いいえ、攻撃手段として使います」
「攻撃手段? 小麦の穂に火でもつけて城を燻すつもりなのか?」
不可解な者を見るような視線をアルセス辺境伯は向けてくる。
まぁ青銅器が主流の時代に小麦を攻撃手段に使うと言えば、稲穂などを燃やして燻すくらいにしか考えが及ばないだろう。
「そうですね……、論より証拠と言いますし……壊れてしまってもいい小屋か建物、そして30キロほどで構いませんのでパンを作るために粉にした小麦を用意できますでしょうか?」
「……分かった」
アルセス辺境伯は、半信半疑の表情をしていたが、すぐに家令らしき人間を呼ぶと指示をしていた。
「それでは、アルセス様。すぐに用意が出来ると思いますので馬小屋のほうへ――」
「うむ。他の者もついて参れ」
家令が急いで部屋を出て行った後、アルセス辺境伯を先頭にリンデール、アリサ、俺に父親は馬小屋に向かう。
「アルス、お前というやつは……」
アルセス辺境伯のあとを着いて歩いていると父親が俺の頭を軽く叩いてきた。
「申し訳ありません、あの場では……、いえ。今回の魔王討伐にあたっては時間がないのです。用意するものはいくらでも必要です。そのため、説明に時間をかけている余裕はないのです」
「それでもな……、アルセス辺境伯がお前の言葉に理解を示してくれたからいいものを……、もし挑発に乗っていたらどうなっていたか――」
白い大理石が敷き詰められている床を歩きながら父親は、俺の身をどれだけ案じていたのか小言を言ってくる。
それでも、こちらが本気だという姿勢を見せないわけにはいかない。
なにせ、この体は5歳の子供なのだ。
生半可なことでは、話を中途半端に聞かれてしまう可能性だってありうる。
それだけは避けなければならない。
出来れば、全軍の指揮権を一時的に預けてくれれば楽なんだが、そうもいかないからな。
俺は目の前を歩くアリサへと視線を向ける。
初めて俺が会ったときよりも、刺々しい雰囲気を纏っていて、どこかしら近づき難い印象がある。
そしてリンデールに至っては、見た目は40歳後半に見えるがスキンヘッドのため正確な年齢が推し量れない。
「やれやれ……」
俺は、父親の小言を右から左に聞き流しながら、これからのことを考える。
プランBは、あくまでも補助的な物に過ぎない。
狙いは他にある。
「アルセス様、お待ちしておりました」
「うむ――、用意は?」
「はい、こちらのほうに――」
60歳ほどの男性。
白髪をオールバックにしている目付けの鋭い家令は、木で作られた馬小屋の横に置かれた麻袋を指差していた。
量としては40キロほど。
麻袋は3袋置かれている。
説明した量よりも3倍ほど多いが少ないよりはいいだろう。
「アルス」
「はい!」
アルセス辺境伯に近づく。
そのとき、父親には気をつけろよと言われたが、もう今更だ。
「これでよいのか?」
俺は、麻袋を開けて小麦粉を確認する。
日本で売っている小麦よりも遥かに粗いが、特に問題はないだろう。
それよりも問題なのは……。
「アルセス辺境伯様、この馬小屋を本当に破壊していいのですか?」
「かまわない。魔王討伐の前には些事だ」
目の前に見える馬小屋は木材で作られているが、まだ新しく建てられたばかりというのが分かる。
「馬は退避させているんですね」
「当たり前だ。私の愛馬シュナイダーだからな!」
「そ、そうですか……」
俺は余計なことを聞いてしまったと思いながら、リンデールのほうへと視線を向ける。
「リンデール様、少し手伝って頂けますか?」
さすがにアルセス辺境伯にお願いするわけにはいかないからな。
ここは筋肉隆々な男に手伝ってもらうのがいいだろう。
リンデールは、近づいてくると「どうすればいいんだ?」と語りかけてきた。
「袋に入っている小麦粉を麻袋から出して頂けますか?」
「わかった」
リンデールが麻袋から小麦粉を全て出すのを確認してから、アリサのほうを見る。
「――な、何よ!?」
「魔法師団長殿、地面の上に撒いてある小麦粉を風の魔法でも何でもいいので小屋の中に撒いてもらうことはできますか?」
「・・・・・・出来るけど、そんなことをしたら小屋の中は何も見えなくなるわよ?」
「はい、問題ありません」
「アルセス様」
「よい、アルスの言うとおりにしてみるがよい」
「わかりました」
「あっ、魔法師団長殿、少しお待ち頂けますか?」
「どうしたの?」
俺は、自分の衣服。
そのウェストに使われている腰紐を足元に転がっている小石に縛り付けた。
「このウェストの腰紐に小さな火種を頂けますか? ちなみに一度に燃えないようにお願いします」
「わかったわ……」
アリサが魔法を発動させると、小石に縛り付けた腰紐が燃え始める。
「それでは、小麦粉を小屋の中に充満させてみてください」
俺の言葉に彼女は頷くと風の魔法が発動する。
リンデールの手により地面の上に山積みになっていた小麦粉が山小屋の中へと運ばれていく。
すると風の魔法で発生した気流により拡散された小麦粉は、馬小屋を白い煙で包み込んだ。
「全員、地面に伏せてください!」
俺は全員が伏せるのと同時に、腰紐が燃えたままの小石を馬小屋へと投げる。
それと同時に、想像していたよりも遥かに大きな爆発音が聞こえたと同時に、俺の意識は闇に呑まれた。
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