Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

会議の方針(2)




 扉が開き部屋の中に入る。
 部屋の中には、アルセス辺境伯と父親であるアドリアン、魔法師団長のアリサと見たことがない男が居た。

 全員の視線が俺に向けられてくる。
 父親とアルセス辺境伯の視線は変わらないが魔法師団長のアリサは興味深く俺を見てきた。
 そして、体格のいいスキンヘッドの男が「辺境伯様。本当に、こんな子供が魔王城を見つけたというのですか?」と、俺を一目見たあとアルセス辺境伯に語りかけていた。

 魔王のことについては、アルセス辺境伯に聞いているようだ。
 問題は、どこまで説明されているかだが――。

「その者から直接聞くがいい」

 アルセス辺境伯が俺に視線を向けてくる。
 どうやら、俺に説明しろと言う事らしい。

「アルスくん、がんばってね!」
「……はい」

 俺が頷くのを確認するとアリサさんは部屋から出ると扉を閉めた。
 今、部屋の中にいるのは俺を含めて5人。
  
「はじめまして、アルス・フォン・シューバッハと言います」

 俺の自己紹介に男は目を見張る。
 その様子は、一周目に俺を見てきたアルセス辺境伯にそっくりであった。
 今なら分かる。
 俺の態度が、どれだけ非常識だということが。

「俺は、リンデール・フォン・ベルナンドだ」

 名前と家名を持つということは、貴族なのは間違い。
 そして、この場に召集されるということは客観的に見て軍関係の人間の可能性が高い。
 中世の時代では全ての兵士の指揮官は国王に近い人間が持っていた。
 それから、その下に将軍が存在していて各部隊長が続いていたはずだ。
 そして一番の問題は、この異世界は魔法が存在している。
 魔法師団はアリサが管理している。
 ということは、あと残るのは……。

「リンデール・フォン・ベルナンド様は、魔法師以外を指揮される方ですか?」
「リンデールでいい。なるほど……、俺は自分のことを名前以外は口にしていないが……」
「どうだ? リンデール」 

 アルセス辺境伯に訪ねられたリンデールという男は、「辺境伯様が言われたとおりでした」と、頭を下げていた。
 ――と、言うか俺を馬鹿にした言い方をしてきたんだから俺に頭を下げてくるのが先だろうに……。
 まぁ、余計なことを言って事を荒立てても仕方ない。
 
「さて、リンデールも納得したようだからな。アルスよ――」
「アルセス辺境伯様、お待ちください」

 話が進みかけたところで、アリサがアルセス辺境伯の言を妨げてきた。

「アリサ、どうかしたのか?」
「はい、彼に何点か質問したいことがありまして――」

 アリサの言葉を聞いたアルセス辺境伯は興味深そうに俺とアリサを交互に見てから頷いていた。
 できれば、アリサとは話をするつもりはなかったのだが、こうなっては仕方ないな。

「アルス君で良かったかしら?」
「……はい」

 俺は勤めて冷静に対処することにする。
 感情を極限まで押さえ込むように何度も深呼吸を繰り返す。
 自らに何度も、社会人のときにプレゼンと繰り返してきた時のように何度も言い聞かせる。
 今は、感情に流されるべきではないと。
 俺のやることは決まっている。
 自らが思った指針。
 俺が考えたプランに、この場にいる誰もが気がつかないように誘導することだ。

「アルス君、あなたは私から魔法を教わったと聞いたけど本当かしら? 私は、これでもアルセス辺境伯の魔法師団長を勤めているのよ? 一人の子どもに魔法を教えるためにアルセイドを離れるとは考えにくいわ」
 
 彼女の言うとおりだ。
 アリサさんも言っていたが魔法師団長が、安易に辺境に赴くはずがない。
 何かの意図があると見て間違いないのだが、その意図が俺には理解できないのだ。
 おそらく、第一周目に何かがあったのだろう。
 その何かで彼女は来ることになった。
 ただ、それを知る術はない。

「何か証拠があれば、私は、あなたが時間を繰り返していると信じることができるのだけども……」
「証拠ですか……」

 俺は思わず笑みを浮かべてしまいそうになる。
 たしかに、普通の魔法師が魔法を俺に教えにきたら、アリサさんのような魔法師なら証拠を提示することは出来なかっただろう。
 だが、俺に証拠提示を求めてきたアリサは別だ。
 彼女は、独特の魔法の教え方を俺にしてきた。

「そうですね……」

 俺は、魔王城にアリサが魔法を放った光景を思い出す。
 そして彼女が魔法を放つために紡いだ詠唱の言葉を思い出すために記憶の糸を手繰り寄せる。
 そして詠唱を! 言語を! 言葉として自らの口で紡ぐ。

「たしか……、炎の精霊よ! 全てを焼き尽くす紅蓮の業火を! 生み出せ! 炎熱弾(ブラスト・ボール)! ――で、良かったんでしたっけ?」
「――!? それは私の……」
「はい、証拠にはなりませんか?」




 

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