Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

魔法究明(前編)




「――ど、どういうことなの?」

 アリサさんが、慌てた声色で俺に問い詰めてくる。
 
「どういう事と言われても……」
「魔力が! 魔力が一切ないのよ? これって魔法使えないってこと何だけど……普通は、魔法が使える才能が少しでもあれば光るものなのよ?」

 もう魔王がいるのは規定路線なわけで、俺が魔王を倒したことがあると言ったことから主戦力として考えられているのは痛いほど理解できるわけで……。
 それなのに俺に魔力が一切無いと言う事は戦力外通告の何者でもない。
 アリサさんが慌てているのも分かる。

「分かっています。この症状には僕も見覚えがあります」
「見覚え? アルスくんは魔法力が無い状態だったことがあるの?」

 彼女の言葉を聞きながら俺は首肯する。
 そう、最初の魔王を倒したときしばらく俺は魔法が使えなかった。
 最後の魔法王との対決のときに魔法を発動させることが出来たが、その魔法の発動に必要なのは誰かを守りたいという気持ちくらいだ。

「たぶん、この状態でも魔法は使えると思います」
「本当に?」

 アリサさんは半信半疑と言った表情で俺を見てくる。
 その表情は、何というか安心した表情をしているようにも思えてくるから不思議だ。

「――でも、無理しなくてもいいのよ? 魔王がいるって分かっただけでもアルスくんは十分に役割を果たしてくれたと思うし。正直、アルスくんが魔法を使えないと思ったときに私は安心したもの」
「安心?」
「そう、だって……、アルスくんは何度も同じ時間を繰り返していたのでしょう?」
「――ええ、まぁ……」

 彼女が語った「安心」という言葉に疑問を抱きながら俺は曖昧に答える。
 アリサさんは俺の言葉を聞きながらも小さく安堵の息を吐くと俺の頭を撫でてきた。

「だって、まだアルスくんは5歳なのだから……、そんな無理しなくてもいいのよ? 魔王と戦うのも私たち大人に任せておけばいいから」
「――っ!?」

 アリサさんの言葉に、俺は言葉にできない衝撃を受ける。
 たしかに魔王を倒すためにアルセス辺境伯に協力を申し出て快諾を受けたり、両親に話しをしたりとしてきた。
 だが、結局のところ最後は俺が何とかすればと考えていた節があるのも事実だ。
 それを含めて魔法を習おうと思ったのだから。
 
「……それでも、いざという時に魔法が使えるかどうかは――」
「そうね。それじゃ外に出て魔法が本当に使えるかどうか試してみましょうか?」
「はい!」

 アリサさんの言葉に頷くと俺は部屋から出る。
 唯一の部屋から出る扉から出ると来客を歓迎する場所――先ほどまで父親やアルセス辺境伯と対話していた客室には誰もいなかった。

「こっちよ!」
「――あっ、はい……」

 部屋の中を見て考えこんでいた俺に、アリサさんが語りかけてくる。
 俺は、すぐに彼女の後を追って部屋から外へと出た。
 踝まで刈り揃えられた草――芝生と言って問題ないだろう。

「あの、ここでですか?」

 俺の言葉に、アリサさんは「ええ」と頷くと「アルセス辺境伯には許可は事前に貰っているから魔法を発動させてみてね?」と語ってきた。

「わかりました」

 彼女の言葉に、頷く。
 俺はアリサが魔法を使うときに言った言葉を思い出す。
 魔法はイメージが大事。
 それは俺の魔法発動にも直結する。
 そう、誰かを守りたいと思う力こそが俺の魔法の根幹――なはず……。

「発動する魔法は氷系の魔法でいいからね」
「はい!」

 俺はアリサさんの言葉に頷きながら、頭の中で魔法が発動する際のイメージを固める。
 そしてフィーナや母親を守りたいという気持ちを抱きながら……。

「アイスアロー!」
 
 俺の力ある言葉が、吹く風で周囲に木霊していく。
 ただし!

「発動しないわね?」
「……は、はい……」

 魔法が一切発動しない。
 一体、どうなっているんだ?
 発動条件は間違っていないはずだ。
 間違っていないのに、何かが足りないとしたら……それは魔力? 

「困ったわね。まったく魔力がないというのも問題だけど……」
「問題だけど?」
「アルスくん。領地内で魔法指南書を使って魔力を調べたときに天井が破壊されるくらいの衝撃があったのよね?」
「はい……」

 俺の言葉を聞いたアリサさんは顎に手を当てるとしばらく考えこむと「ほかに何かおかしな点とか無かったの?」と問いかけてきた。

「おかしな点と言っても……」
「…………あっ!? でも、これは関係ないような……」
「どんな些細なことでもいいから、何かあったら教えてね?」
「はい、実は……、時間が巻き戻ったときに、すぐ魔力を測ろうとしたのですが魔法指南書は一切光らなかったんです」
「ふむ……、そのあとは光ったの?」
「はい」
「その時に何か特別なこととかしたの?」
「特別な事と言うか……最初、魔王を倒したときのように水汲みをしたくらいしか……」
「それって自宅の手伝いをしたってことなの?」
「はい……」

 話を聞いたアリサさんは、思案顔をしたあと「もしかしたらアルスくんの魔法や魔力回復って普通とは違う行動をしないと発動しないのかもね」と指摘してきた。





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