魔法と魔力（前編）

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　俺の自己紹介を聞きながら、アリサさんは立ち上がると俺の頭を撫でながら「何度も同じ時間をやり直しているって聞いたわ」と話かけてきた。

「そうですか……」
「ええ……。アルスくんは同じ時を繰り返して何か自分が変わったと思ったこととかあるのかしら？　たとえば、貴方と話をしていて気がついたのだけど……とても大人びた思考をしているように思えるわ」
「……」

　たしかに……、彼女の言うとおりだ。
　年齢的に5歳と言えば小学生1年生になるか成らないかくらいの年齢だ。
　そんな年齢で理論的思考が出来るのかと言えば、不可能に近いと言える。
　おそらくだが簡単な受け答えしかできないはず。
　それが、大人である彼女と対等に話しをして尚且つ、魔王を含めた問題点を理路整然と説明できるのは異常に映るだろう。
　
「なるほど……」

　俺は、口元を右手で隠しながらようやく理解する。
　彼女に言われて初めて……客観的に自分自身を見た場合の異常性が分かる。
　最初のときに辺境伯が俺のことを魔王だと言って殺そうとしたのも、明らかに5歳児とは思えない対応をしたからに違いないのだろう。

「どうかしたの？」
「いえ……、俺が辺境伯に殺された理由がようやく分かって――」
「――え！？　アルセス辺境伯が貴方を？」
「はい、それが何か？」
「私は、シューバッハ騎士爵領に魔王が封印されていて、それを討伐するために貴方が同じ時間を何度も繰り返している。そして、倒すためには貴方が魔法を使えるようになる必要があるとしか聞いていないのだけど……」
「――あ……」

　まずい……、さすがに自分の寄り子である騎士爵家の跡継ぎである子供を寄り親である辺境伯が殺したとなれば体裁が悪い。
　さらには、自身の部下にも非情な為政者と思われてしまう可能性もある。
　ここは、今後、アルセス辺境伯に協力をしてもらう以上、フォローしておくべきだろう。

「どういうことなの？　アルスくん、きちんと説明してくれるわよね？」

　かなり興奮しているのか彼女の体が震えている。
　俺をまっすぐに見てくる瞳には、何か強い意思があるように見える。

「簡単に説明しますと、魔王を討伐したことがあって……。そのあと、先読みの巫女の予言で魔王討伐をしに来たアルセス辺境伯に、僕が理路整然と受け答えしたことで魔王と思われてしまい、攻撃をされたのです」
「そ、そんな！？」
「気にしないでください。全ては領民を守るために短い時間で判断し対応しただけだと思いますので……、それにアルセス辺境伯が直接、辺境であるシューバッハ騎士爵領に来られたのですから、彼は領民を本当に思って行動したはずです」
　
　魔王に一度、殺されたからこそ俺には分かる。
　大事な人を守るためには何をしないといけないか――。
　最小の犠牲で大勢を救えるなら、それは為政者としては必須だと言うことが。

　表情を青くして俺の言葉を聞いていたアリサさんが「でも……、それでも……」と、語りかけてきた。
　その表情は、どこか悲痛な色合いを見せている。

　俺は、彼女は続く言葉を紡ぐ前に頭を振る。
　おそらくだが、俺の身を案じているのかもしれない。
　
　――でも、俺には心配してもらう資格なんて無い。

　俺の浅慮な行動で、フィーナを殺してしまったから……。
　どんなに同じ時を繰り返しても、俺がフィーナを殺してしまったという事実は消えないし消せない。

「気にしないでください」

　俺は、魔王城の封印特性も両親に伝えた。
　そして倒し方も教えた。
　だけど……、自分がフィーナを間接的であったとしても殺したとは一言も話をしてはいない。
　人の噂には戸を立てることは出来ないからだ。
　もし第三者を通して彼女――フィーナに自分の犯した過ちで彼女を殺したと知られたら……、その結果、自分を否定するような瞳で見られたと思うと、とてもではないが本当のことを全て説明することなんてできなかった。
　
　――そう、結局――。俺は、どこまでも卑怯者で、罪と罰を受ける覚悟もない卑怯者。

　魔王を殺すのだって、フィーナの仇をとるというよりも復讐に近い。
　分かってはいる。
　それでも、俺は魔王を殺して腹心を倒す。
　そのためなら何でもするし、嘘だっていくらでもつく。

「俺は貴族です。自分の領民を守るためならいくらでも、この身を犠牲にするのも厭いません。……ですが、俺が死んだら同じ時間を繰り返すことになります、――ですから、そうならないために魔法を教えてほしいのです」
「……わかったわ。どんな魔法を教えてほしいのかしら？」
「たとえば、同じ時間を繰り返している事象を止める魔法などはありませんか？」
「アルスくん！？」

　そう……、敗北条件の一つである同じ時間を何度も繰り返す事象。
　それを取り除くことが最優先だ。