豪華客船ルウェロット・ベレネスティンディア号の悲劇

11月光志/11月ミツシ

第1日目、午後

 人は気づかぬうちに他人を傷つける。善意でも悪意でも…

 12時47分、彼ら一家は昼食をとるためにレストランへとやってきていた。広すぎて、お前これレストランていう表現じゃないと一家一同ツッコんだ。
 それほどまでに広かったのである。
 基本的には、各宿泊者専用の場所が当て振られており、名前と部屋番号を聞いた係員がきれいに整えられた窓側の席へと一家を誘導していく。
 テーブルの上には、ナイフとフォーク、ワイングラスの他にアメリカの新聞紙が置かれていた。周囲の席にも新聞紙が置いてあることから情報のための措置なのだろうと思う。
 一息ついた一家は新聞に手を伸ばした。

「……む?」
「どうしたの?」
「いや…新聞にな、ヨーロッパ情勢が妙に怪しくなってきてな…」
「えっ?でも戦争中じゃないよね」
「そうなんだが…大西洋で第4帝国の潜水艦が見られるようになってな…被害はないそうなんだが…」

 第4帝国…。ヨーロッパの新国家で旧名をドイツ帝国ともいう。20世紀初頭に電撃的に誕生し、今や東ヨーロッパ諸国を占領、世界各国から第4帝国といわれている。占領行為は国際法違反なので国際連盟は第4帝国に対して抗議、制裁決議をしているのだが、現在も黙秘を貫く国家である。最近雲行きが怪しく、近く大きな戦争が起きるのではないかと言われている。
 そんな第4帝国の潜水艦…Uボートは数もそうだが、商船などが発見することは不可能に近く、航海するときはの無いように渡るしかなく、命がけである。こうかいだけに…ふふ

「父さん…何か無性にイラっと来ているんだけど…」
「奇遇だな、私もだ」

 ととと、とりあえず、彼ら一家はこの先の事を心配しながら豪華客船ルウェロット・ベレネスティンディア号での初の食事に勤しんだ。
 食事のディナーだが、記録する前にすべて食べられてしまったことだけ伝えておこう。


 食後の後は、大人は昼間っから娯楽を求め低階層へ、子供たちはプールや展望デッキなどであるが…西ヶ丘姉弟は両親とまたまた離れ、探検という名の散歩…散歩という名の探検をするところであった。っで、今はエントランスホールがある階層の一角にある休憩スペースで持参した将棋を指していた。
 ちなみにだが、この姉弟そこそこの腕前で、姉の方は中学1年生の時に全国優勝、弟は完全独学で姉に並ぶ腕前を持っていた。
 海外までわざわざ将棋盤を持ってきた理由として、時間つぶしや海外に広めるためだそうだ(父親談)

「あの…これは、なんですか?」

 二人は顔を見合わせ、声のした方へ顔を向けた。
 そこにいたのは、茶色を混ぜた髪をゆるぽわ感を出した少女がいた。

「あの、将棋ですが…やってみます?」
「いいですか?」
「ええ、僕の席へどうぞ」

 おお、紳士っぽくなったね聖一…真奈は大いに自分の弟の成長を喜んだ。涙ぐんではいないのだが、心がぴょんぴょんしそうなほど、喜んでいたそうだ。
 だが、二人はこの少女に将棋を進めたことを激しく後悔する羽目になった。


「もう一回!もう一回やりましょう!」

 現在の時刻は午後6時、そろそろ晩ご飯を食べに行かねばならないのだが、現在50連敗という異様な記録を更新し続ける少女が悔しいので何回もリベンジしようとする。少女の腕はターンを積んでも上がることもなく一定の腕前を保っているというプロ真っ青な状態だった。
 姉弟はプロまではいかないものの、普通の子供よりかははるかに強いので、圧勝するのは当たり前なのだが、あまりにも少女が惨敗しすぎて肝を冷やしていた。

「いや、だから、私達そろそろ…」
「じゃぁ、歩きながらやりましょう!」
「何故?!」

 目を輝かせて言ってくるので、姉弟は、あっ、これ説得無理な奴だ!と感じた。
 仕方がないので、聖一が盤を持ち、うまく水平に保ちながら支え、2人が対局するという、曲芸まがいの状況になる羽目になった。
 ただ、もう持ってしまったのは仕方がないので、聖一たちはゆっくりゆっくりと会場まで行くことになった。ついでに言うと、晩飯はうまかったという。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品