虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

グッズ没収



 アイスプル 神・世界樹

 技術の進歩……というか、『プログレス』の進化が少し厄介になっている点。
 俺の作り上げた生産技術を、ブラックボックス化した部分から暴いている模様。

 幸いにして、今の人々ならある程度再現できるものに留まっている様子。
 ……最新の物に手を出していたなら、相応の制裁が下っていたことだろう。

「風兎、お前……」

『…………し、仕方が無いだろう』

 俺の普段を知る者が居れば、この現状を酷く驚くことだろう。
 住民たちの声を聞き、この星でも一番目立つ大樹にやって来た俺。

 そこで見たのは──映像水晶を浮かべ、二本足で立ちサイリウムを振り回す兎。
 器用に音声は風で包み、周囲に騒音と思わせない配慮をしていた辺りが憎めない。

「まさか、こんな日が来るとはな……たしかに俺も、布教をした身。相手が自分の渡した物に嵌まるっていうのは嬉しいさ」

『な、なら──』

「だからと言って、アイツらを心配させる理由にはならんだろ。いったいいつから、そんな状態なんだ?」

『……昼前から』

 空を見る──満点の星空が浮かんでいた。
 時間の流れる速度は現実と違えど、この世界の者たちにとっては現実と同じ感覚で流れている……相当待たされたわけだな。

「もう夜だけどな。俺はともかく、アイツらにとっては数十時間だ。あんまりド嵌まりしているなら没収しかねんぞ」

『そ、それは……!』

「今はイエローカード、注意だ。だが、見るに堪えない……森の守護者ではなく、アイドルの守護者にでも成り果てたその時は、風兎が持って行った全部のグッズを回収させてもらうからな」

『ぐっ……』

 映像水晶にサイリウム、他にもフィギュアやらポスターやらハッピ(サイズ調整付き)など……いろいろとグッズがある。

 風兎はそれらを一セット分独占、思うままに楽しんでいた。
 住民たちも気になってはいたが、風兎ほど嵌まる者は居なかったようだ。

「いやな、別に良いんだぞ。しっかりとメリハリをつけて楽しむ分には。たた、俺たちの世界にも居たんだよ……そうして趣味に傾倒した結果、身を破滅させた連中が」

『…………』

「ということで、とりあえずそのグッズは一度仕舞いなさいな。それ、ちゃんと民たちに謝ってこい」

『…………分かった』

 トボトボと歩く風兎……うん、どうやら四足歩行のやり方忘れてしまったようだ。
 まあ、それについてはどっちでもいいので構わないが……そうだな、助言はしよう。

「あー、あー……そうだな。ただ、住民たちの方から、ずっといっしょに見ていたいって意見が大多数なら……話は別だな」

『っ……!』

「まあ、現状はまったくだし……さて、どうする風兎?」

『そんなの、決まっている!』

 そうして、元気を取り戻した風兎は再び駆けていく。
 そう、すべてはこの世界にアイラブを布教するために!


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