虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
生産世界初訪 その29
一先ず、『メモリーメイカー』で生み出した戦乙女たちが無双した。
中でも、アインヒルドは当時の光景から格上殺しの力を得て『万象戯画』を攻撃する。
「まだだ──『黒』!」
「……よろしいのですか?」
描いていたキャンパスを黒く塗り潰すことで、この場に生み出した暗黒。
魔力で編まれた現象のいっさいを、完全削除するというリセットみたいな効果。
だが、広範囲かつ強大なものなため、肩を揺らすほどに疲労してしまっている。
そして何より、描いてきたすべてが文字通り白紙ならぬ黒紙になってしまった。
「最悪の気分だ……でもね、ボクが居る限りボクの芸術は終わらない。ゆえに、こんな割に合わない依頼はキャンセルしよう。まったく、安請け合いなどしないものだね」
「それがよろしいかと……貴方に、失名神話の神々の加護があらんことを」
「失名神話? 聞いたことが無いね」
「よろしければ、ぜひに。このような休人である私にも、慈悲深く接してくださった神々の方々ですので」
俺の言葉をしっかり受け取ってくれたのだろうか、しばらくして「考えておく」とだけ言って『万象戯画』はこの場を去る。
残されたのは周囲に草の根も残さず更地と化してしまった大地、そして俺だけ。
誰も見ていないことを確認し、地面に倒れ込……ことなくドローンに寝そべった。
「ふぅ……最後の置き土産、とか言われても困るからな。『SEBAS』」
《人形を転送、『リビングドール』をインストールし操作を実行……反応しました》
「やっぱり、地面に描いておくってのは定番だしな。うん、転送先の方を調べておいてくれると助かる」
《畏まりました。すでに体内にはGPSなども付けております》
今の言い方だと、GPS以外にもいろいろと入っているみたいだが。
まあ、空間転移用の座標などそういったものが入っているのだろう。
他にも罠があるかもしれないので、そのままドローンを上空へ。
起き上がって見下ろす光景は、人族が魔物に勝利するというものだった。
「『万象戯画』が塗り替えていたもんな。それも依頼の一つだったのか……あるいは、偶然そのタイミングを引き出した、彼らの勝利なのかもしれないな」
これで遺跡から得た新たな情報により、この世界は更なる発展を遂げるだろう。
……しかし、生産世界はそろそろ俺を追い出そうとしている、つまりそういうことだ。
祝っている今、多少のことは許されるかもしれない……最後にやるべきことを済ませるべく、俺は街へと向かうのだった。
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