虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王防衛策 その17



 ついに決着が訪れた。
 ショウと【魔王】、双方の心臓を突き刺した剣たち。

 結果、ショウは死亡して船の上に死に戻りしてしまう。
 そして、【魔王】は──

『見事であったぞ、休人たち。認めよう、我が力の一端を見せるに値したと』

 さも、何事も無かったかのように振る舞っている【魔王】。
 だがショウと共に剣が消え、塞ぐ物が失われた体の穴からドバドバ流れ出る生命力。

 休人によって、それが血なのか光のエフェクトなのかはバラバラだろう。
 しかしその光景が、【魔王】を弱らせた証なのだと誰もが理解した。

『──『アビリタプランナー』』

 だが、今にも死にそうなはずの【魔王】は平然としたまま。
 掌を前に仰向けで翳すと、そこから小さな妖精が現れた。

『──『フェアースピリー』』

 妖精は何もせず、【魔王】の周囲を飛んでいるだけ。
 それこそ、休人にも魔族たちにも関わらない──存在意義を保つために。

『まだ気づかぬか──『フロートアーム』』

 再び現れた無数の腕、そのうちの一つが神聖な力を妖精に向ける。
 妖精は発動したその魔法を受けると、今度は【魔王】に対して受けた魔法を放つ。

 無詠唱で発動したそれは、回復の魔法。
 それも本来、魔族には毒とされる神聖魔法であった。

『これが我の力だ。神聖、正義、そして勇者だろうと関係ない。我が力の前に、すべてを奪い去ってやろう──“上昇台風スーパーセル”!』

 次はあえて魔法名を告げる。
 それが強力なモノであり、自在に放つことができることを証明するためだ。

 休人たちは見た──無数の腕たち、そして【魔王】の腕が同じものに変貌する光景を。
 そしてそこから放たれた膨大な量の風、纏まりそれらはやがて嵐と化す。

 船は荒れ狂う海と嵐に押し出され、強制的に魔族大陸から追放される。
 風はいつまでも吹き続け、彼らを元の大陸まで引き戻していく。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──計画通りですね。どうやら、彼らは能力を『プログレス』に由来した簒奪だと考えているようです」

『ふっ、当然だ。あそこまで露骨に演じてみせたのだ、そう思ってもらわねば恥だ』

「少なくとも、大衆はそう錯覚するはずですね。一部の者、特に【魔王】様と相対した者たちはそうは思わないでしょうが」

 今回、あえて【魔王】は前に出て自らの情報を休人たちに晒す計画を立てていたのだ。
 理由は単純、早め早めに開示していた情報ほど後になって疑えなくなるから。

 作戦には骨子となる情報が必要で、今回の場合は【魔王】の能力が基となる。
 相手の力を模倣、ないしは簒奪するという力を前提にしたやり方を考えるのだ。

 それを騙す【魔王】の策がえげつない。
 なんせまったく嘘は無いのだ──実際に簒奪の権能を持っているのだから、能力を基にした情報分析も大して通用しないだろう。

『『生者』よ、よく気づいていたな』

「もしもの可能性、それに備える【魔王】様の徹底ぶりはよく知っておりましたので。ほら、例の【勇者】との闘いで」

『そうか、アレがあったな……なるほど、ぼろを出してしまったか』

 なお、俺が現在会話をしているのは、玉座に潜んでいた【魔王】の一部。
 ……誰も居ない場所で俺が何かしないか、わざと放置して観察していたらしい。


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