虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王防衛策 その16



 無数の腕を展開し、強者のソレに上書き。
 職業由来の強力な能力を、【魔王】はショウに対して放っていた。

 そのコンボが行われている間、ショウは防戦一方だったのだが……その勇ましい戦いっぷりは、見ているだけだった休人たちの心を揺さ振っていたようで。

『──へっ、危ないところだっ……げふっ』

『邪魔をするな、これは我と──むっ』

『そういうなよ、つれないな。もともと、俺たち全員と戦ってくれるって話だったじゃないか……おいショウ、時間は俺たちが稼いでやる。だからでっかいのを一発、頼むわ』

 魔物や魔族たちの防衛ラインを超え、二人の死闘へ介入した休人たち。
 あの手この手で無数の手を阻み、【魔王】とショウを引き離す。

 実際、彼らを歯牙にも掛けないのが本来の【魔王】の実力だが、今は自らにさまざまな制限を設けている関係から、一人処理するごとに若干のラグが生じてしまっている。

 休人たちは数の暴力でそれを押し切り、どうにかショウが必殺技を放つ時間を稼ぐ。
 その行動に【魔王】は怒声を放ちつつ……小さく笑みを浮かべ、休人を屠っていた。

「すべては計画通り、ですね。自ら進んで情報を提供してくれるとは……彼らもまた、献身的としか言いようがありません」

 これまでの戦闘中も、[銀閃]を振り回しながらあることをしていた【魔王】。
 だがそれだけでは満たされず、目的──休人の『プログレス』模倣条件を集めていた。

 原人であれば、対象を視認して存在を模倣すれば同時に手に入れることができる。
 正確には少し違うが、【魔王】自身が発現した『プログレス』がそれを可能にした。

 だが、休人にはシステムの保護が掛かっているため情報の一部が複製されない。
 要は『プログレス』自体の模倣をしても、その使い方がまったく分からないのだ。

 そして今、彼らは全力で【魔王】を相手に時間稼ぎを行っている。
 当然、『プログレス』の能力も使えるだけ使っているわけで……つまりそういうこと。

「おっと、時間が来ましたね。さぁショウ、見せてください!」

 ショウが発動させたのは、“オーバーブレイブ”……ではない。
 今のショウにはたくさんの仲間が居る、ゆえに“チェインソウルズ”が力を示す。

 膨大な能力値を使い、握り締める剣は闇色の剣──銘は[エクリエンド]。
 ショウのパーティーメンバーが打ち上げたソレで、力強く【魔王】を攻撃した。

 激しい剣戟が何度も繰り返され、やがて決着の刻が訪れる。
 剣はお互いの心臓を刺し貫き──ショウの姿をその場から消し去った。


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