虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王防衛策 その15



 休人を相手に無双する【魔王】。
 禍々しい魔剣[銀閃]を振り回した果て、一人の休人の前で動きを止めた。

『そうか……貴様が』

『へえ……俺は、【魔王】に知られているんだな』

『無論だ。休人最高峰の剣の腕を持ち、無数の剣を操る『剣皇』。魔族の侵攻を、ことごとく防いでいると聞いているぞ……何より、あの男の息子らしいな』

『ああ、自慢の父さんだ!』

「──ぐはっ!」

 う、嬉しくて心へダメージが。
 反抗期らしい反抗期も無く、ショウは俺をいい父親だと変わらず思ってくれている。

 何だろうな……うん、さすがは自慢の息子だと褒めれば良いのだろうか。
 とりあえず、【魔王】が戻ってきたら盛大にパーティーをする準備をしなければ。

 いそいそと:DIY:を使い、さまざまな料理を作り上げていく。
 そんな間も、ショウと【魔王】は話を續けていて──戦いが始まる。

「腕は……ショウが上ですね!」

《ですが、統合的な戦闘力は【魔王】の方が上でしょう》

「こればかりは経験の差でしょうね……格上との戦闘経験が【魔王】様には何度もあるわけですので」

 休人の利点には、死に戻りを前提とした命がけの戦闘で得られる経験が含まれていた。
 本来、命に限りがある原人がその一点において叶うわけが無いのだが……。

 そこに当代の【魔王】は含まれない。
 なぜなら彼は、自らの種族性質を以って過去すべての【魔王】が得てきた体験を擬似的に辿ることができるのだから。

 そしてそこには、冒険世界の最強や最高の存在である【冒険勇者】や『騎士王』といった面々も含まれており……より高みを、理不尽を味わい切っているわけだ。

「おっ、『プログレス』と種族性質のコンボでしたか。アレは【冒険勇者】にも通用するいい組み合わせです」

 先ほどとは異なる魔族の腕を反映させ、そこに埋め込まれた『プログレス』を起動。
 無数に展開された腕、その一本一本がまた異なる何者かの腕へと変貌する。

「ここで無数の『プログレス』を反映出来たらよかったのですが……基本、展開できるモノは一つですからね」

 前にコンボを見せた際は、『超越者』の権能を複数展開していたが……『プログレス』の能力は、仕様的に多重で発動させることができないようになっている。

 生やした腕からまた腕を、と燃費さえ考えなければ無尽蔵に生まれてしまう。
 もしそれで、『騎士王』の腕を増やされたら厄介……というのがだいたいの本音だ。

「さて、ショウはもうアレを使うしかありませんかね? それとも、また何か別の手段を思いつくか……とても楽しみです」

 そもそも、ショウは独りで挑んでいるわけじゃないのだ。
 二人の戦いに魅せられ、諦めない者はまだ居るようだしな。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品