虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

神様談(24)



 神々の領域。
 本来、人の──俗世の穢れが届かぬその空間なのだが、最近は違っていた。

 どこからか流れるアップテンポな音楽。
 聞こえてくる幼い少女たちの歌に、神々は耳を澄ませていた。

「うん、あの兎君もいい捧げ物を用意してくれたよ。お陰でこうして、僕たちも曲を聴くことができるんだからね」

「ふんっ……他の神話に知られれば、どのような嘲笑を受けることやら」

「そんなもの、言わせておけばいいよ。それとも、君はもう聴かなくていいんだ?」

「…………そんなことは言っていない」

 神々は娯楽に飢えている。
 そんな中、風兎によって神・世界樹に並べられた品々は、他でもない■■■──創造神様の御業によって複製された。

 ツクルでは成し得ていない運営謹製のアイテムの複製、それを創造神は『勝手に持っていくのも悪いよね。あの兎君もこっそり聞きたいだろうし』と片手間で済ませている。

 ありとあらゆる品々が、創造神の前においては掌握可能な玩具に過ぎない。
 圧倒的な格の差は、運営のプロテクトを超えて複製を実現させていた。

 ……しかし、それによって成し得たのはアイドルグッズの収集。
 可能ではあるが、今は力を失っている神話であるため、限度も存在していた。

「君がそんな態度なら、しばらくはずっとアキちゃんの曲にしちゃうもんね」

「何だと!? ■■■、創造神ともあろうものがそのようなことを……!」

「へへーん、悔しかったらちゃんと言うんだね。『■■■様、どうかアメちゃんの曲を聴かせてください』ってね!」

「!? な、なぜそれを……」

「さっきからずっと、チラチラグッズに目が向いているじゃないか! そんな見た目だから、お爺ちゃんみたいな感性で孫可愛がりしているんじゃないの?」

「このっ、言わせておけば……ええい、大人しく曲を変えろ!」

 記録水晶の奪い合いをする二柱の神。
 その姿に超然とした風格は無く、どこからどう見てもアイドルのファンにしか見えない光景だった。

「お二人とも……」

 そんな様子を◆◆◆◆は、ただ呆れた様子で見ることしかできない。
 普段はハリセンで■■■を叩く彼女だが、それでも相手は選ぶ。

 もう一柱の神、死神には普段から■■■の扱いで勉強をさせてもらっている。
 ハリセンは■■■専用の品、そういった制約があるからこそ効果を発揮していた。

「私にできることは……何もありませんね。ええ、仕方がありません」

 そう言って彼女は、記録水晶は諦め別の物に目を向ける。
 歌詞集を読みながら、流れてくる音楽に合わせて歌を口遊むのだった。


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