虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

刀王談(02)



 ツクルが去った後も、彼らはその手を止めることは無かった。
 共に刀を扱う者として、目の前に並ぶそれに目を奪われていたからだ。

「『生者』には感謝してもしきれんな……これほどの妖刀が、こんなにも手に入るとは思わなかった。必ずや、この恩に報いるためにも──期待しているぞ、『辻斬』殿」

「うむ、心得た! ……心得たのだが」

 ツクルが持ち帰った無数の妖刀。
 迷宮の力で作られたソレは、紛い物であり供給源を失った道具そのもの……本来の仕様で扱うことは難しい。

 だがそれでも、それらを糧としてより強力な妖刀を作り上げることができる。
 その任を任された『辻斬』であったが……少々気が重かった。

「むっ、どうかしたのか?」

「いや、なに。どうにも難しくてな……あの『生者』殿が使う刀など、本当にこの世に存在するのかと」

「……たしかに、そうであるな」

 彼らは知っている、『生者』という存在が歪かつ世界最弱であると。
 最弱でありながら、最後まで残り続けて勝ちを得る……そんな存在であることを。

「たしかに、妖刀を打ち上げれば持つこと、使うことはできるであろう。しかし……それが真に必要かというと、おそらくはそうではあるまい」

「宝の持ち腐れ、とは違うな。ヤツにとって必要な物は、おそらく武器ではない。そう考えると……なるほど、貴殿が苦労するのも分かるな」

「武具鍛冶師に武具を作るなとは……ましてや、某は妖刀を専門とする鍛冶師であるというのに。どうすればよいのやら」

 ツクルは彼らに、自らが腕の良い……というより神業レベルの職人であることを伝えていない。

 厄介事を嫌ってのことだったが、彼らはある程度そのことを見抜いていた。
 こちらが武具を提供せずとも、問題の無い実力がある……その程度ではあるが。

「いっそのこと、戦うことを目的としない物などどうだ? たしか、『生者』が持ち込んだ刀にはそのような物があったぞ…………そうだ、これだこれ。『磨刀[砥石]』、他の刀の耐久度を直すための刀だ」

「……なんと、そのような物が」

「まあ、自らの耐久度は血を吸わねば満たされぬようだが。このように、妖刀自体ではなく妖刀の支えとなる物、それこそこの鞘のような物を作ってみるのはどうだ?」

 自らの妖刀[屍装]の鞘、[妖塞]を軽く叩きながら告げる。
 これもまた、『生者』が制作者を偽り渡した物なのだが……彼らは知らない。

「…………うむ、考えてみよう。これほどまでに参考となる妖刀もあるのだ、一つぐらいそれを活かした物を打ち上げてみようではないか!」

「うむ、その意気である! ……失敗作はぜひとも、俺に売ってくれれば助かる」

「……【刀王】殿」

 結論として、この試みは『生者』にとっても益のある結果を生むことになる。
 しかしそこに至るまで、『辻斬』は長い間苦悩するのであった。


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