虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

妖刀戦争 その10



 銘も無き墓碑 四層

 迷宮を破壊するほどだった、九拿の実力のほんの一部。
 お陰で第三層はすべてが崩壊、俺と彼女以外のすべてが失われた。

 ……事前に『SEBAS』に飛ばしてもらわなければ、そうなっていただろう。
 ドローンで迷宮外へ飛ばしてもらい、事なきを得た。

「おや、様子が変わりましたね」

 何もかもすべてが無くなったため、見つけやすくなった階段から次の階層へ。
 今までは戦場跡地っぽかったフィールド、それが四層からは別の物に。

 そこは木造かつ和風の廊下。
 屏風で敷居が分けられたそこは、まさに屋敷やお城のような風格を放っている。

「……なるほど、敵もまたこの場に合わせた形になっているはずです」

「強い?」

「強いでしょう。しかし、九拿さんに比べれば遠く及びませんよ。あまり、先ほどのような力を使われ方は避けた方がよろしいかと。目的の品が、回収できませんよ?」

「むぅ……分かった」

 第三層に在った妖刀、ドローンが回収前の品もあったのだが……九拿の一撃がそれを消滅させていた。

 妖刀自体の強度もあるだろうが、普通の品も集めるなら全力はアウトだろう。
 彼女の明確な目的は分からないが、妖刀を集めているのは間違いない。

「私も私で、妖刀を集めておりますがそこまでではありません。目的を果たすまで、共に参りましょう」

「いいの?」

「ええ──っと、どうやら来たようですね」

「……鎧武者」

 彼女の言う通り、現れたのは鎧武者の姿をした魔物だ。
 その手にはきっちり、まだ見たことの無い妖刀を握り締めている。

「九拿さん、どうか最初は私に」

「いいよ」

「ありがとうございます──[虚膨]」

 この場に似つかわしくない武器。
 それは妖しい力を帯びた妖刀ではなく、星の力を体現した一振り──星剣。

 俺用の小さな探検を握り締めると、鎧武者に向けて突っ込む。
 刀で俺を一刀両断……されながらも、残された腕が剣を鎧武者に突きつけた。

「膨らめ、[虚膨]」

 魔力を籠めることで、無限に大きくなることができる星剣の能力。
 今回はその方向性を弄り、剣身が風船のように膨らむように設定した。

 そしてそれは、突き刺さった鎧武者の内側から起き──最後には鎧武者を破裂させる。

「中身が空っぽな魔物で良かったです。少し凄惨な光景になるところでした」

「その剣、凄い」

「そう言ってもらえるとありがたいです。これは知人に作ってもらった一品なんですよ。手に持って見てみますか?」

「! いいの?」

 多少の嘘を交え、目をキラキラとさせている九拿に星剣を渡す。
 何やら興味津々と言ったところだが……これが目的に関係あるのか?

 これまでに見た『陰陽師』の式神たちの待遇的に、強制的な命令では無いはず。
 だからこそ、ここには彼女自身が目指す物があるはず……それはいったい何だろうか。


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