虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント後篇 その08



 ルリの強みはEHOにおけるアバターのスペックではない、どんな状態であろうとも発揮される……されてしまう、神々に愛されたとしか思えない運の良さ。

 そこにEHOのLUCシステムが融合し、手の付けられない存在と化している。
 ……『神運』って『超越者』が居るらしいけど、絶対にルリ以下なのは間違いない。

≪ルリ選手の攻撃が続く! はっきり言ってまったく剣技とはいえない子供のお遊戯みたいな振り回しです……それでも、そのすべてが世界に愛された一撃となっています!≫

《……どれだけ演算しても、アズル選手の事象を引き起こすことはできないという結果になりますね》

≪魔法が物理現象を超越しているように、ルリ選手という存在そのものが、奇跡染みた概念なのかもしれませんね。そんな彼女の息子だからこそ、一方的にやられないという面もあるかもしれません≫

 ルリが心から望んでいるのは、一方的な蹂躙ではない。
 彼女は息子であるショウとの正々堂々な闘いを望み、世界はそれを肯定している。

 だからこそ、ショウは突然躓いたり硬直で剣を落としたりせず、今なおルリの神剣をギリギリで捌いていた。

 どうやら避けるよりかは受けた方が、被害が少ないことを本能的に察したようで。
 実際、武器破壊が起こることも無く、打ち合いが続いていた。

≪ルリ選手の剣は、必ずといってもいいほどにショウ選手にとって都合の悪い場所に命中していますね。対策をしようとしても、その対策をした後で都合の悪い場所に剣が届くという理不尽な攻撃です≫

《それでもショウ選手、剣の当たるそのギリギリで攻撃を見極めようとしています。少しずつ合わせられるようになり、アズル選手にもダメージが通り始めています》

≪ですが、それまでにショウ選手もかなりのダメージを受けています! 果たして、間に合うのか!?≫

 ダメージの割合は、ショウが8割でルリが1割といったところか。
 ショウはスキルで、ルリは回復魔法でそれらは減らせるが、今はその余裕が無い。

 ルリに対抗するように、速度で攻撃を押し返していくショウ。
 だがルリの攻撃を剣で受けると、強い衝撃から強制的に連撃を中断させられる。

《ノックバックと呼ばれる現象です。相手だけに、しかもあの剣技で行えるのは異常ですが、それでもショウ選手はアレを攻略しない限り反撃は難しいでしょう》

≪攻略、できるのですか?≫

《あくまで、ショウ選手次第ではあります》

 どうやら何かに気づいたようで、ショウはその手にした剣を再び切り替えた。
 ──さぁ、いったい何をする?


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