虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント後篇 その03



「──“刃影”!」

 ショウは狼を模したストラップを握り締めると、そこに魔力を流し込む。
 すると自身の影から、真っ黒な剣が一本飛び出してくる。

 それは[フライハット]と寸分違わず同じ形状、違うのはその色だけ。
 星のオーラすら放つ完全な模倣を可能にしたのは、先ほど使ったストラップのお陰。

≪『孤軍刃籠[シャロウ]』、ショウ選手の持つユニーク種の特典アイテムです! その能力によって、ショウ選手は星剣をもう一振り取り出しました!≫

《“刃影”によって複製される剣は、性能を完全に再現します。ショウ選手の【剣星】による補正は、こちらにも対応するため──能力値の補正も向上します》

 ショウの動きが急激に良くなる。
 だが、今のショウはルリを攻撃することができない……なぜなら、今なお彼女を見つけられていないからだ。

 ルリは時折放つが、神気を交えて潜んでいるためかその気配をいっさい掴めていない。
 俺や『SEBAS』はある方法で見つけたが、ショウに同じ方法は無理だ。

≪えー、ここで会場の皆さんには、ルリ選手がどこに居るのかを開示しましょう……あまり驚かないでくださいね≫

《特殊な方法で、擬似的に表示します》

 そうしてショウには見えないが、会場の者たちにはルリの姿が見えるように。
 彼女が現れた、その現在位置は──なんと空の上。

 ルリは種族である【星宝獣】の能力によって、浮遊をしていたのだ。
 もちろん、ショウも上に注意をしていたのだが……ルリの方が一枚上手なようで。

 これまでの戦いではいっさい使わずに隠してきた精霊魔法を、こっそり使っていた。
 ルリは精霊たちの頼むことで、気配を別の場所に移している。

 消すではなく移す、そこに“幻光ミラージュ”を重ねれば偽装することができた。
 ……当然というかなんというか、ルリが連れているのだから普通の精霊じゃないのだ。

≪それ以外で精霊を頼らないため、ルリ選手が精霊を使役できる可能性に思い当たらないのかもしれません……ちなみにうちの家族のエピソードで、精霊に関する話は出たことがあります…………が、それ以上の話もかなりあるため、忘れてしまうんですよね≫

 光を無数に放ち、攻撃を続けるルリ。
 ショウは高い能力値によりノーダメージではあるが、反撃はできていない。

 制限時間の縛りは無いので、焦らずともいいのだが……魔力だけが減っているルリと生命力まで減っているショウとでは、経過していく時間の中で得られる物に差がある。

 ショウとしては、短期決戦が好ましいのだろう──再びストラップを握り締めた。


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