虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その17



 兎型の災凶種[ラヴィンド]。
 風兎に憧れを抱いたその個体は、強い風を生み出すことができた。

 風の速さは光よりも雷よりも遅い。
 空を舞う者たちはその速さに耐える体を持つか、あるいは半ば肉体を捨てることで物理法則から抜け出している。

 だが風の使い手には、第三の選択肢が与えられていた。
 それは風を操り、自身の動きに合わせて調整することで衝撃を相殺する方法。

 風兎にはそれができた……ならばそれをしようと望むのは、憧憬を抱く者──すなわちファンとして当然ではなかろうか。

  □   ◆   □   ◆   □

 荒れ狂う風を纏い、舞台の上を駆け回っていた[ラヴィンド]。
 すでにその速度は音速を超えて遷音速、超音速──極超音速へ。

 段階を超える都度、攻撃の意図が無くともショウを襲う物理の力。
 強い衝撃波と熱がショウに牙を剥くが、冷静にショウは剣を振るう。

≪[ラヴィンド]選手の一挙一動で起きるいわゆるソニックブームと高熱を、ショウ選手は星剣で斬っています! 理屈? そんな物は不要です、優れた剣士にはなんだって斬れるのですから!≫

《解説しますと、星剣の有するあらゆるエネルギーへの干渉能力を、ショウ選手が最大限発揮した結果となります。担い手の技量次第で干渉度合いは変化しますので、一流と言っても過言ではないでしょう》

≪……すみません、少々盛り上がってしまいました。さて、ついに極超音速の域にまで速度が達しています。分かりやすい数字で言いますと、マッハ5.0でしょうか? 尋常ではない速度となっております≫

 ショウもさすがに眼で捉えることは難しいようで、半ば勘での対応だ。
 しかし逆にそれが功を奏したのか、少しずつ攻撃にも対応している。

 剣はだんだん風を割いていく。
 そのたびに、[ラヴィンド]の速度が低下している。

 負けじと加速する[ラヴィンド]、そうはさせまいと斬っていくショウ。
 必死に競う二人の決着は──ある瞬間、唐突に訪れる。

≪ついに、ついに剣が当たった!≫

《[ラヴィンド]選手自身の速度、そして星剣の性能に加えてカウンターの武技……決まりましたね》

 さながらそれは、バットにクリーンヒットしたボールのように。
 大きく吹き飛んだ[ラヴィンド]は、そのまま──壁へ衝突。

≪試合終了! 決勝へ進出したのは──ショウ選手だ!≫

 ……おそらく、[ラヴィンド]は意地の差で負けたんだろうな。
 超極音速に達した時点で、突進していれば勝っていたかもしれない。

 だがそれでも、[ラヴィンド]は速度の極みに辿り着くことを望んだ。
 ……良くも悪くも、魔物たちは自分の欲に忠実だからな。


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