虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その14



 第四試合、ついにルリが登場した。
 対するは火の玉[アライボウィスプ]、強いには強いのだが……この試合、ほぼ間違いなくルリの勝ちとなる。

≪0──試合開始です!≫

 カウントダウンを終え、試合が始まった。
 ルリはゲームの聖女が着ているような、装飾が映える衣装を身に纏い、そのうえ錫杖まで装備している。

 だが特に何かをするわけでもなく、対戦相手である[アライボウィスプ]を見つめた。
 そんな対戦相手に[アライボウィスプ]の怒りは──高まることは無い。

 分かっているのだ、彼女のそれが強者故の余裕であると。
 放たれる存在感、それがこれまでに出てきた人族とは次元が違う超常的なものと知る。

≪[アライボウィスプ]選手、お得意の無限残機戦術を使いませんね≫

《理解しているのでしょう。たった一つの行動が、自身の命運を大きく左右すると》

 本来、[アライボウィスプ]は紹介文の通り無限とも呼べる残機を生み出す能力を有しており、相手が音を上げるまで何度であろうと攻撃……みたいなことができた。

 しかし、ルリを前にすればたった一度の攻撃で幕を閉じてしまう、そんな予感に苛まれているのだろう。

 そしてそれは、おそらく事実。
 どんな因果が結びつくかは不明だが、ルリが勝利する命運へ至ることだけはほぼ間違いないはずだ。

≪ここでルリ選手、錫杖を鳴らします。光が辺り一帯を包み込み──これはいったい……なんと、舞台が聖地のように聖気に満たされた領域になったぞ!≫

《領域の構築。今この瞬間、舞台はルリ選手の神域となりました》

≪神域ですか……それは、聖域とは意味が違うのですか?≫

 聖域と神域、どちらも神聖な場所という意味で捉えられているのだが。
 どうやら『SEBAS』、そしてこの世界的には意味合いがはっきり違うようだ。

≪聖域とはすなわち聖なる領域、こちらは主に人族にとっての恩恵という意味合いで用いられます。対して、神域とは読んで字のごとく神の領域──つまりは≫

《……嗚呼、なんと神々しい》

 答えは解説するまでも無く、舞台の上で起きていた。
 ルリから放たれる圧倒的神威、神の力による圧が[アライボウィスプ]を襲う。

 何が起きたのか、理解できた者はほぼ居ないはずだ。
 いつの間にか[アライボウィスプ]は、自ら舞台から降りることを選ぶ。

《[アライボウィスプ]選手、自身との差を痛烈に理解したのでしょう。自ら降参することを選んだようです》

≪さすがはルリ選手です──ということで、第四試合の勝者はルリ選手! これで、準決勝への出場者が決定したぞ!≫

 相手に何もさせず、圧倒的な力の差を見せつけての勝利。
 ルリ……うん、子供たちの前だからと張り切ったのは間違いないな。


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