虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その12



 床の一部が無くなったので、緊急でルールの一部を変更した。
 そこに触れた負け、新ルールをどう活かすか見物である。

≪さぁ、[グラファイス]選手がどんどん舞台を喰らっております。喰らえば喰らうほど強化を図れるため、まったく損をしない戦術ですね……対するマイ選手は、ウルさんに騎乗して宙を駆け始めました≫

 聖獣や魔獣など、強大な個体は基本的に陸海空にある程度対応できるだけのスペックを有している。

 特に、聖天狼は名前に『天』が付いていることもあり、他の個体に比べてさらに適性が高い──常駐することもできるだろう。

 なお、[グラファイス]も宙に足場を展開することはできるので、舞台を全部喰らっても当人(狼)に何ら支障は無い──そして、すべての舞台を喰らい終えた。

≪さぁ、舞台は宙すべてとなりました! なお、エリア制限に関して細かな設定はしておりませんでしたが、基本的にこの闘技領域から出なければ問題ありません──今、領域を可視化します≫

 設定をしてくれた『SEBAS』により、結界が展開されて色が付く。
 そこから出ても自動的に敗北認定、そう二人に伝える。

≪壁には物理的な干渉力がありませんので、支えにとは考えないでください……おっと、ここでマイ選手が動く!≫

《聖天狼ウルを一気に上空へ……そして、領域の高度ギリギリまで上がったところで、送還させました》

≪そして、新たに従魔を召喚──なんとなんと、これは……大量に召喚だぁああああ!≫

 空から降り注ぐ無数の従魔──だがそのすべてが、コスト換算では1の個体ばかり。
 それらは封石によっていちいち出したわけではない、マイの『プログレス』の力だ。

 だが、そんな能力もあくまで召喚のためにしか用いることはできず、強化された[グラファイス]を相手取ることなど、絶対にできないような……虚弱な個体である。

「“────”!」

 だが、上空でマイが何かを叫んだ。
 すると体からボウッとエネルギーが溢れ出ると同時に、それが現れた従魔すべてに行き届いていく。

 嫌な予感がしたのか、[グラファイス]もすぐに迎撃を開始。
 体内に貯蓄していた舞台の一部を、弾丸のように飛ばしていく。

≪さすがにこれでは、従魔たちは…………どういうことだ、攻撃は当たっているはずなのに、一体も脱落していないぞ!?≫

《──なるほど。そういうことですか》

≪何か分かりましたか?≫

《はい。マイ選手が先ほど叫んだ能力こそ、この一連の事象の絡繰りです──攻撃の無効化、一時的な無敵化。そしてそれが、従魔すべてに行き届いています》

 それが意味するもの。
 ダメージを受けない文字通り無敵の軍団によって、重力の力も借りた死なない神風特攻の爆撃……一度切りの裏技と言えよう。

 そして、従魔たちは無敵状態を維持したまま[グラファイス]へ特攻。
 彼らの働きにより、体の一部が少しだけ地面に──マイの勝利がこの瞬間に決まった。


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