虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その11



 マイは[グラファイス]に対抗するため、呼び出した聖天狼に強化を施した。
 それこそが【調律姫】である彼女の戦い方であり、もっとも勝率の高いやり方だ。

≪さぁ、そんなわけで[グラファイス]選手とマイ選手の従魔であるウルさんが、さっそくぶつかり合いました! ウルさんは聖なる光を纏って力にし、[グラファイス]選手はその能力で自身を強化しています≫

 あらゆる物を喰らい、糧とすることができる……それが[グラファイス]の能力。
 マイもそれを登場前の紹介で聞いていたからか、不用意に攻撃を行わない。

《上手いですね……[グラファイス]選手の能力が機能してしまえば、確実にマイ選手は不利になってしまいます。最低限の支援に留め、自身は観察に努める。もっとも合理的なやり方です》

≪何より、二人の間に絆があるからこそできることです。何もしない無能な主、そう認識されないだけの関係性を結んでいるのでしょう……っとここで、[グラファイス]選手が動きを見せる!≫

《穴を掘る……いえ、地面を喰らい始めましたね。ルール上、舞台から落ちてしまえば失格です。その辺りを守っているため、あくまで床を食べるだけに留まっていますが……面白いことになりましたね》

≪えー、お知らせします。床の部分が剥げた場所に体が触れましたら、その時点で失格となります。何らかの魔法でそこを補うのもアリですので、覚えておいてくださいね≫

 これまでの試合では起き得なかった、床の消失という問題の発生。
 それ以上は[グラファイス]も食べなかったので、そのまま試合は続行。

 ただし、ルール的に舞台から出ること自体がアウトなので、舞台の定義である床の上から居なくなった時点で敗北扱いにする──つまり、剥げた部分に触れても敗北だ。

 なお、床の定義は舞台から地面の間すべてなのだが、[グラファイス]は自身の能力のためにブルドーザーの如き動きで根こそぎ喰らい尽くしている。

 そのため、食べられた部分だけがごっそり削り取られていた。
 舞台の三割ぐらいが穴になってしまう……が、まだ足場は多い。

 新ルールを言い終えた直後、マイが魔力をウルに送る。
 従魔師系の職業であれば、従魔に意思を伝えるために念話が伝える、おそらくそれだ。

 魔力と共に指示を受け取り、ウルは咆哮と共に光を生み出す。
 聖獣である聖天狼、その力の根源である聖気を活性化させたようだ。

 このままでは、[グラファイス]が舞台の大半を喰らい尽くしてしまう。
 マイはその前に、この戦いに決着をつけなければ敗北することになる。

 ……何か考えがあるのか、実況しながら楽しませてもらおうか。


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