虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その01



 アイスプル

 前回の集合場所は始まりの街だった。
 しかし、どこでジンリの目が見ているか分からないので断念──代わりに予め渡した魔道具でアイスプルに直接来てもらっている。

 そこは俺が初期に創り上げた、ただただ空に近い半透明な足場。
 前回はそのまま『永久の楽園ダンジョン』に行ったので、あまり細かい案内はしていなかった。

「──改めて、ようこそアイスプルへ!」

 休日の朝から[ログイン]をしているのだが、こちらの時間帯は夜。
 普通なら、ルリたちも気にしなかっただろうが……冒険世界の時間は昼。

 どの世界でも同じ時間の流れなため、アイスプルだけが夜な状態に驚いていた。
 上を向いても星は見えず、足元に本来あるはずの街の光も今だけは消してある。

 あと、忘れられているかもしれないが、もともとこの世界に太陽は存在しない。
 何も存在せず、ただ真っ暗な世界……そこに俺(と『SEBAS』)が彩りを付けた。

 天候現象装置という装置が、この世界を照らす擬似太陽を担っている。
 なので住民に通達したうえで、一時的に普段とは異なる時間に消灯しているだけだ。

「アナタ……これって」

「ふっふっふ、皆さん足元にご注目! 世にも珍しい──花火を上から見下ろすショーと行きましょうか!」

 高々に叫ぶと同時に、『SEBAS』が俺が前日に仕込んだ魔道具を起動。
 筒型の魔道具は中に装填した花火玉を上空に打ち上げ──火薬を宙で炸裂させる。

 見下ろすことを前提とし、花火はx軸とy軸ではなくy軸とz軸に花開く。
 そして、その結果……子供たちが目を輝かせてそれらを眺めてくれている。

「「…………」」

 二人とも無言、というか唖然というか。
 ある意味一番嬉しい反応をしてくれる子供たちに、俺も思わずにっこり。

 花火は普通に一定の色で炸裂する玉だけでなく、ファンタジー鉱石を混ぜることで途中で色が変わったり、形が変わるような面白い物までさまざまだ。

 たとえば反重力の鉱石を混ぜた場合、火花が下ではなく上に向かって散っていく。
 他にも物凄く輝く鉱石やら、光が一定時間留まる鉱石なども面白い花火になった。

 そうして花火が咲き続けること十分ほど、子供たちが飽きる前に〆の花火が咲く。
 最後の花火はメッセージ、『アイスプルへようこそ♪』と書かれていた。

「さて、改めまして──」

『アイスプルへ、ようこそ!』

 街の明かりが同時に灯り、一ヶ所に集まってくれていた住民たちが叫ぶ。
 まあ、ほとんどが魔物なのでほぼ雄叫びだが……気持ちは伝わったようで。

「父さん、本当に凄いよ!」
「歓迎しているって、伝わってくるもの」
「それだけアナタが、みんなと仲良くしているってことね!」

 感想はそれぞれだが、高評価なようで何よりだ……そんなこんなで、第二回の家族限定イベントが始まるのだった。


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