虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント準備 その10



 アイスプル

 情報通な奴でも、やはり頼るかどうかは選り好みするな……という考察をして。
 結局、【情報王】には頼らないままアイスプルへ帰還することを選んだ。

 外部の問題を他の人々に押し付けたので、次は内部の準備を整えなければならない。
 メインイベントであるバトルの開催予定地は決まってたが、飾り付けをしてなかった。

「まあ、コロシアムを用意してもそこまで迫力があるわけじゃないし……観覧席を用意して、あとは魔道具でどうにかしよう」

 本来のコロシアムであれば、非殺傷結界やら環境変遷用の魔道具などが置かれている。
 しかし、うちの住民は自分たちで環境を塗り替えることができるため不要だった。

 非殺傷結界に関しても、蘇生薬と闘技領域があれば問題なく戦える。
 わざわざ設備を用意する必要は無い、ならばそれに合わせて場を整えたかった。

「まあ、最低限安全に観れるように、観覧席には結界を配置するけど」

 サポートドールとドローンが現在、物凄い速度で観覧席を建てている。
 求められているのは生産職としての技能スキルではなく、職人としての技術テクニックだ。

 現代の職人のデータもある程度組み込んであるので、寄木造りなどもできる。
 出来に大きく関わるわけでは無いが、まあ要はシステム的品質以外は何でも可能だ。

「準備が整ったら、みんなを呼ぼう。予定の方は、ある程度調整してもらったし。さて、祭りを開こうか」

 俺自身が観覧席を造っていなかったのは、それ以外に必要な物を用意しているから。
 錬金術、そして魔道具製作技術を交えた祝砲──花火を無数に製作中だ。

 前回は街並みを見せて歓迎していたが、その手はもう使えないわけで。
 なので今回は別の技術──花火を無数に創り上げて、開幕式代わりに使う予定だ。

 今の時代、花火なんて自宅から拝める技術がごまんとある。
 しかし、古来より流れる日本の血ゆえだろうか、人々は今なお実物を求めていた。

 そしてこの世界、ファンタジー鉱石に溢れたこの世界ならではの花火も製作可能。
 そんな挑戦を試みた休人たちの[掲示板]情報を参考に、玉をどんどん作り上げた。

《──旦那様、全招待状の既読が確認されました》

「そうか……いよいよだな」

 予定変更はおそらく無いだろうし、問題なく実行できる。
 あとはこちらの受け入れ準備だけ、それも花火が出来上がればバッチリだ。

「当日の天候やらについて、風兎経由で全員に通達を。この辺りは、【救星者】としての権限をフルで使わせてもらわないとな」

《畏まりました》

 そうして、準備を済ませて──当日。
 盛大な歓迎によって、俺は家族を再びアイスプルへと迎え入れるのだった。


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