虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント準備 その01



 現実世界で家族との予定立てもできた。
 ならば今度は、すでに始めていた迎え入れの準備を更に進めていこう。

《お帰りなさいませ、旦那様》

「おう、さっきぶり」

 現実から[ログアウト]し、こちらへ戻って来ていた『SEBAS』に出迎えられながら、向かう先は神・世界樹の麓。

 そこで待つ小さな兎──その見た目とは裏腹に莫大なエネルギーを秘めた星獣こと風兎に俺は会いに来た。

「風兎、例の件は全員が了承した。ついては選別を依頼したい」

『ほう、お前の家族という妄想だと思っていた者たちだな。そうか、ならば参加枠を減らしておかねばな』

「……そんな風に思っていたのかよ」

『なんだ、違ったのか?』

 それを俺に振るか? ……いやまあ、俺に不相応な家族だとは思うけどさ。
 それでも夫、父親として頑張ろうとしている男に対して、その発言は無いだろうに。

 風兎に任せていたのは、アイスプルにおける此度開くことになったバトルトーナメントの出場選手の斡旋。

 ただし、参加者は募集要員以上に集められるので、それをどう減らすかの担当だ。
 今回、ショウだけでなくマイやルリも参加するので……枠が減ってしまう。

 俺? 俺は正直、参加しなくても良かったのだが、ぜひともしてほしいとのお声掛けがある。

 その熱い要望に応えることこそ、夫であり父親である男……いや、漢の使命だろう! 

「ついでだし、風兎も──」

『いや、出ない。そうなると、住民の枠がさらに減るだろう?』

「それは……そうだが」

『こちらとしては、人型と非人型で分けた方が良いと提案しただろう。だが、それでは息子が……どうこうと宣った奴のせいで、余計に手間取っているのだがな』

 ……すみませんでした。
 うちの人型──カエンや銀花、エクリなどに戦ってもらうと、ちょっと厳しいかな……と思いますので。

 その点、非人型な魔物たちならば、単純明快な強さを有しているので安心だ。
 えっ? 何が厳しくて何が安心か? それはもちろん──子供たちの勝率だよ。

 ルリに関しては言わずもがな、しかし子供たちのアバターはいちおう人類の枠組み内。
 理すら超越した存在や、厄災の権化とも呼べる個体を相手にするにはまだ厳しい。

 相性によってはあるいは……だが、そもそも彼らはレイドボス以上の強さだしな。
 多少のハンデや制限は設けるだろうが、それでも優勝は難しいと思う。

 それでも、経験を積ませられるからな。
 一番の問題は…………うん、やっぱりルリに勝てるかどうかだ。

「風兎、正直に答えてくれ──アイツらに、ルリを倒すことはできるか?」

『…………厳しいな。すでに現人神の域にまで達しているのだろう? そのうえで、常々話す奇跡を意図的に起こすような運を有していると。それはいったい、どこの神話の存在なのだ?』

「ごくありふれた家庭の話、だったらいいんだけどな」

 そんなこんなで、更なる準備を俺は進めていく。
 やることは盛りだくさん、しかし家族のためならえんやこらだ。


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