虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
執事雇用 後篇
第二回家族限定イベント。
記念すべきその内容は、アイスプルの住民も含む最強決定戦だ。
それならば、翔が満足できるだけの刺激的な戦いが用意できる。
……俺がやっても、ただサンドバックを嬲るのと変わらないからな。
舞と瑠璃も参加を宣言したのは、正直予想外ではあったが。
……彼女が望まない限り、そこまで贔屓な戦いにはならないと思うが、注意はしよう。
「なぁなぁ、『SEBAS』。普段の父さんはどういう感じなんだ?」
《旦那様はアイスプルに居る際は、住民とよく話しておいでです。また、レベリングなどもこなしております》
「そうなんだ。じゃあ『SEBAS』、冒険世界だと何をしているの?」
《生産ギルドへの納品、『プログレス』の観察などでしょうか。特別な機会に多く見舞われる旦那様ではありますが、そういった行動も多く取っております》
うぅ、なんだか恥ずかしい。
もちろん、恥じるようなことをしているつもりは無いが、親の仕事っぷりについて聞いている子供たちの姿はなんとも言えないな。
瑠璃もその辺は気になるらしく、子供たちの会話に耳を澄ましている。
……『騎士王』から聞いた情報だけじゃ、まだ不足していたか。
「せ、『SEBAS』。その……なんだ、あまり──」
「アナタ」
「る、瑠璃……」
「(ニコッ)」
少なくとも、子供たちの質問を妨害することはできなくなった。
察しのイイ『SEBAS』は、俺の言いたいことを分かっているだろう。
……それでも、瑠璃という我が家の最高権力者には逆らえないはずだ。
俺は甘んじて、この拷問にも等しい時間が過ぎるのを待つしか無かった。
とはいえ、何度も言うように恥じるべきことは何もしていない。
冒険世界での思い出は、元より家族で共有していることばかりだしな。
いくつか子供たちが質問をするが、その返答で俺が引きつくことは無かった。
瑠璃もしばらくすれば笑みの質を変えてくれたので、俺も話題を変えられる。
「ほらほら、もう二人ともいいだろう? それに『SEBAS』も……そろそろだろ?」
「「そろそろ?」」
「『SEBAS』は運営との契約で、こっちに居られる時間に制限があるんだ。まあ、そのまんま[ログイン]制限だと思ってくれればいい」
無制限でこちらに干渉していると、何かしらの不備があるのだろう。
可能な限り延長を要求したのだが、これはマザーAIの意思ということで却下された。
《申し訳ありません、翔様、舞様。そして旦那様、奥様──今日はこの辺で、失礼させていただきます》
「ああ、向こうで会おう」
アイスプルで俺は会えるし、うちの家族に渡してある機械を使えば『SEBAS』との連絡はできる……うん、そう長い別れでは無いんだよな。
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