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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

探索イベント その17



 アレから一日が経っている。
 チュートリアルの部屋に居座り、何もしない時間が過ぎていた。

 持ち込んだアイテムで脱出はできずとも、アイテムを使うこと自体はできる。
 便利な家電を模した魔道具なども、ほとんど何も無いこの部屋へ持ってこれるのだ。

「──ふぅ、ある意味これこそがEHOの遊び方なのかもしれないな」

《旦那様、お茶を》

「おっ、ありがとな」

 ドローンが運んできた緑茶を啜り、ホッと一息吐く。
 すぐに出るでもなく、ただまったりとしているだけの時間……うん、悪くないな。

 本当なら『SEBAS』のアバター(?)であるセバスにやってもらった方が雰囲気は出るのだが、さすがにエクリを呼んでおいてセバスまで……とはいかなかった。

 そうすると、こちらに留まっている間の処理制限が発生してしまう。
 今なお、ハイスペックな器を用意できていない俺の落ち度だな。

「さて、テレビでも観ますか……おっ、ちょうど今だったか」

 番組がやっているわけではないので、その映像はドローンやエクリが実際に映している光景を投影している。

 そして現在、エクリは俺が倒したヤツ以上に優れた休人と戦闘を繰り広げていた。
 ……このイベント、バトル要素は皆無だったはずなんだがな。

『“■■■・■■■:スタンドアローン”』

 エクリは己の『プログレス』を使い、そのうえで他者の『プログレス』を再現する。
 今回発動したそれは、単独での戦闘時における不屈成功率くいしばりを高める能力だ。

 要するに、生命力が0になるようなダメージでも一定確率で耐えられるというもの。
 タンカーなら絶対に欲しい能力だが……残念、これは一人用である。

『──『鍛造錬産・暗器』』

 続いて行うのは、俺と『錬金王』で完成させた生産世界の新技術……のパクリ。
 錬金術を主軸として、他の生産技術を絡めることで過程を省略──即座の生産を行う。

 今回生み出されたのは黒塗りの短剣。
 目の前に現れたそれを即座に掴むと、何も無い場所へ投げつける。

 すると、その何も無いはずの場所で短剣は留まり……赤いエフェクトが流れ出た。
 どうやら隠蔽状態で潜んでいたのを、強制的に引っ張り出したらしい。

「うん、バリバリで使いこなしてるな……上手くいっていて良かった良かった」

《複合錬産には、まだ慣れていないと報告を受けています》

「あー、そっちはな。基本的なコードはどうにか見つけたんだが、複合すると少し勝手が違うみたいでな……その辺りは新『錬金王』であるユリルに期待だな」

 先代も期待しているし、俺だってそうだ。
 あの子が自分だけの成果を出して、誇らしげにしている姿が見たいよ。


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