虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

探索イベント その05



 チュートリアル用の部屋に戻ってきた理由は二つ──逃げ延びるため、そして異なる手段で脱出するためだ。

《──強行突破での脱出は不可能です。しかし、それ以外での手段は許容されます。施錠はこのエリアにある物でしか開きませんが、その鍵を得る方法もまた、一つでは無いということです》

「それでまあ、俺の考えた方法も試してみるわけだな。とりあえず、やってみるか──この針金で!」

 前回、俺は『万能開錠の鍵エクストラ・マジックキー』を用いて開錠しようとしていた。
 だが、『SEBAS』の語る通り、元よりエリア内に無かった物では開かない。

 そこで逆転の発想──必要な物を揃え、新たに鍵を創れば良いのではないか?
 今回であればほぼ無意味だが、難易度が上がれば上がるほど鍵は見つけづらくなる。

 すでに当たりの鍵は調べており、構造は解析済み。
 なので部屋の中を探し、そのときに見つけていた針金を取り出す。

「ふんふんふーん♪」

 鼻歌交じりに作業をすれば、いつの間にか手の中で針金の形状が変化していた。
 鍵の突起部分を模したそれを鍵穴に差し込み、もう一本用意した針金に力を籠める。

 ごくりと息を呑み、そのまま横に回す……が、上手く回らない。

「? おかしいな」

《旦那様、どうやら正解の鍵が変わっているようですね》

「……なるほど、正解はランダムだったか。まあいい、なら──全部試せばいい」

 構造を覚えていた鍵は、正解だけでなくそのすべてだ。
 なので、ダメだったというのであれば、前回同様同じことを繰り返すだけ。

 しばらくはそんなことの繰り返し。
 ただ、前回よりは運が良かったのか……六回目で、上手く施錠が外れる。

「……開いた、な」

《開きましたね》

「さてと……今度も同じ方法ですぐに戻って来ないとな」

《畏まりました》

 扉を開ければ、再び休人たちが共有した空間に出るわけだしな。
 何も対策しておかないと、無防備な状態でその姿を晒すことになってしまう。

 脱出するまで、クリア報酬の鍵が出たとしても触れることはできない。
 だからこそ、それを得た後にどう動くのが問題になるわけだな。

「……まっ、捕らぬ狸の皮算用みたくなるかもしれないがな」

《少なくとも、旦那様が確認時にピッキング関係のエリアはございませんでした。旦那様同様に、二周目の者が居ても鍵が変更される以上、難易度は相当でしょう》

「そういうことにしておこう。じゃあ、速攻で済ませるぞ」

 勢いのままに、俺は扉を開く。
 その手には──新たに鍵が現れた。


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