虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
VSチャイナ娘 その05
乾いた音が木霊する。
決闘を行うアンノウン(ツクル)とナヨ。
舞台へ近づいたナヨの祖父、そしてかつてアンノウンに敗北したことのあるジーヂー。
彼によって響いたそれは、彼の手から生み出された衝撃を意味する。
呆然とする孫娘のナヨ、祖父の手は彼女を叩──こうとしていた。
「……むっ、結界か」
「傍まで近づくことは許しましたが、それ以上は許可していませんよ? 大変申し訳ありませんが、激励は物理的な叱咤を伴わない形でお願いします」
しかし、それはシステムの理によって阻まれる。
決闘中の二人を邪魔することが無いよう、結界が構築されていたからだ。
歓声を聞くために音は通っていたが、物を投げられては困るので質量を持つ物が通らないようになっている。
それが当人たちにとって意味のある行為であろうと、結界は設定通りに機能した。
ジーヂーも無理だと判断したのか、大人しくその手を下げる。
「仕方あるまい……さて、ナヨよ」
「……お爺ちゃん」
「今はジーヂー、なんじゃろう? ナヨよ、はっきり言うぞ──奴には勝てん。それはお主が弱いからでも、奴が強いからでもない。そもそも、果たすべき目的が違うからじゃ」
孫娘が誤った認識をしないよう、言葉を選びながら伝えていくジーヂー。
その意味は観客にもすぐには伝わらず、だがそれゆえに関心を抱かれる。
言葉は主催者によって拡声され、会場中に広がっていく。
それを分かっていてなお、今伝えなければならないヒントを伝える。
「少し前より状況は確認しておったが、お主は嵌められたのじゃよ。この場も、賭けも、そして戦いすらも無意味。敵討ちも、すでに達しており、そして一生できぬことじゃ」
「……私たちが、プレイヤーだから?」
「そういうわけではない。お主がそれを達したという事実を前にしても、決して満たされぬからじゃよ。たとえばそうじゃな……お主は蚊を、いや目に見えない微生物を殺して満足感を得られるか?」
「どういうこと?」
不思議そうに首を傾げるナヨ。
ジーヂーは、その後方でただ笑みを浮かべているだけの男を見ながら、この決闘の無意味さを語る。
「勝負内容はこうじゃったな、最後までこの場に居た者が勝ち……先に退場した者が負けでも、『えいちぴー』が尽きた者でも無く。ナヨよ、それがどういう意味か分かるか?」
「……死んだら負けなんでしょ?」
「いや、違う。生き残った方が勝ち、そしてその過程を考慮しない……ということじゃ。つまりじゃ、この時点でお主は儂の仇を討っておるし、何度も何度も奴を殺しておる。目的は果たされているのじゃよ」
そうジーヂーが言い終えた時、舞台の上で拍手が鳴り響くのだった。
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