虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
布教活動 後篇
布教活動は命懸け。
最悪、神々同士の争いになることも想定して動かなければならない。
無論、俺は休人である以上、もう二度とこちらに[ログイン]しなければいいのだが。
恩人もとい恩神たちを売るわけにはいかない、なので行動に制限が設けていた。
「まあ、実を言ってしまえば変装でも偽装でもして、身分を偽れば私が襲われることは無いのですが……失名神話を信仰する、その点だけは決して偽ることができませんので」
心当たりでもあるのか、奴隷(仮)騎士であるフィーヌもそれを聞いて納得している。
ルリ教……こちらだとアズル教団も、そうして他の信仰を潰しているのか?
そう、原人や休人を騙すことだけならいかようにもできよう。
しかし、俺が布教活動に行うに当たり絶対に偽れない一点──失名神話が狙われる。
仮に邪教扱いにでもされれば、知られても蔑まれてしまうかもしれない。
それだけは……なんとしても、避けなければならない事態だ。
というわけで、結局布教活動にしては王道的ではないやり方のまま。
それでも、地道にではあるが認知度が向上していることに変わりはない。
「残念ながら、失名神話そのものを信仰してはくれないでしょうがね。それでも、ある程度は効果があったようです──“微回復”」
生命力は満タンだが、回復魔法を発動。
仄かな光が指先に集まり、それを向けた部分に温かな感覚が起きる。
それを[ログ]で確認すると、本来どの程度回復するはずだったかの数値が表示されていた──そしてそれは、今までよりも高い数値を示す。
信仰による細やかな恩恵。
失名神話の極めて少ない……あるいは、唯一人の信仰者である俺に与えられた祝福。
まあ、それも全部【宣教師】の職業スキルで補正が入っているだけだが。
布教すれば布教するほど、与えられる恩恵に補正が入るのだ。
「まだまだ【宣教師】としては未熟ではありますが、これからゆっくりとその言葉を伝えていきましょう」
ちなみに、同名の『超越者』が居るが、こちらの権能は職業スキルとは少し異なる。
言葉は上手く伝わり、教えはより広まるというもの……シンプル故に恐ろしいんだよ。
ともあれ、そこまで真面目に取り組まないまま布教活動は終わりそうだ。
……そう、少なくとも、俺の中では終わりになりかけている。
「本当にいいのか? その、上層部の者たちに何も言わないで」
「疑うということは、つまりその存在について考えるわけですからね。実態に無いものであればあるほど、勝手に膨らめてくれます。私にとって利しかありませんよ」
つまりはそういうことだ。
ルリの恩恵に甘んじているのならば、相応の聖人っぷりを見せてもらいたい……嗚呼、頑張ってくれ聖職者の皆さま!
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