虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
布教活動 中篇
反則ギリギリ、『プログレス』経由で強制的に認識させる布教活動を始めました。
仕方ないんだよ、ルリ以外に世界はそこまで甘くないんだから。
失名神話がどれほど知られているのか、それを知る術は…………ある。
現在就いている【宣教師】、その中に布教度合いを確認できるものがあるからだ。
自分で特に何かをせず、ただ時間経過で自動的に知名度が上がっていく。
そしてそれは、【宣教師】のレベリングにもなるので……一石二鳥なんだよな。
「ですが、これで上手くいくのも一定の段階まででしょう。あくまでこれは、認知されるための手段。知っているだけとより深く知ろうとする、とではまた別物ですので」
「……それは、そうですね」
「ええ、なので失名神話がその名とは裏腹に名前を取り戻すところまでは、まだどうにかなるかもしれません。しかし、神々が個々に名を取り戻すようになるまでは……まだまだ時間が掛かるでしょうね」
俺が選んだ【宣教師】は、個々の神々ではなく神話自体を信仰する職業。
なので失名神話自体は力を取り戻すが、彼らを個々に支える力とはならない。
だがまあ、神話の力が強まればその分だけ神々ができることも増える。
祝福を授ける、神託を下す、そして──神器を下賜するなど。
神々がそれぞれ、そうしたサポートをしたくなる人族を見つければいい。
そうして、力を貸してもらった人族が己の功績を以って恩を返すことになるだろう。
「ところで、通常の布教活動は行わないのだろうか? 何もせずとも布教できる、ならば何かをすればそれ以上に効果があるだろう」
「……かもしれません。ですが、それは同時に私が失名神話を広めようとする者だと告げる行為になります。私が狙われることは、構いません。この身はいかに滅ぼそうと、決して果てることはありませんので」
「ならば、何を……」
「我々人族の小さな諍いではなく、神々同士の戦い。現状、力が不完全な神々がそれらを行えば、不利になるのはこちら。使いとなる聖職者たちに、目を付けられないように振る舞う必要があります」
俺一人の問題では無い以上、行うべきことも慎重に決めなくてはならない。
北欧神話のラグナロクのように、神々が戦うこともあるだろう。
失名神話は力を失っている。
それは偶然なのだろうか……否、人と神どちらかは分からずとも、神話そのものが丸々力を失うなどありえない。
そこに潜む何者かを暴く、あるいは隠されたナニカに対処できる力を取り戻すまで、今はまだひっそりとやっておいた方がいいな。
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