虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
布教方法 後篇
女騎士(奴隷)のフィーヌに、俺の現状について話すことに。
初めはルリ以外の神を祈ることに怒っていたが、話を進めるにつれて怒りは収まった。
「……名も無き神々、失名神話ですか。たしかに、彼の神々に心当たりはあります。ですがそうですね、普通の方法では周知させることは難しいかと」
「それはどうして?」
「簡単な話です──既存の宗教が、すでに同じことをしているからです。本を読む者、鑑定スキルを上げている者などは別として、ほとんどの者は聖職者の言葉を信じておりますので……難しいと思いますよ」
「貴女は、信じてくれるのですね」
「アレから役に立てるよう、本を読むようにしましたので…………もっとも、一度として指示を受けるどころか、顔すら見ていませんでしたが」
「ははっ、申し訳ない」
なお、始まりの街に関しては、すでに宗教関連のほとんどをルリ教団が牛耳っているので問題ないはず。
頼ってばかりで申し訳ないのだが、恩人ならぬ恩神には報いたい……ちゃんと現実で本人に許可は貰っているが、それでもフィーヌの言うことは正しい。
始まりの街以外でそれを行えば、そこで活動している宗教団体から目を付けられることはほぼ確定……最悪、執行部隊を派遣されることになるだろう。
北欧神話、そして運が良ければギリシア神話当たりの神殿ならば融通が利くかもしれないものの、すべての宗教団体が必ずその二つの神話に属する神々を祈るわけではない。
慎重に動いた方が良いだろう。
そうなると、俺に必要なのは……正しい知識だろうか。
「フィーヌさん、私に知恵を貸してはいただけませんか?」
「と、言いますと?」
「失名神話の神々に関する認識を、改めさせたいのです。名前を憶えていただくことはできずとも、そういった神々の存在がある……そう知っていただくだけで充分ですので」
神々は信仰されることで力を得るが、そうでなくとも知られるだけである程度の力を保つことができる。
維持できれば余った分で、神威を発揮してさらに知らしめる……そうした正の連鎖を繰り返していくことで、ゆっくりとではあるが信仰させていくともできるはず。
「つまり……手を回せと?」
「あっ、いえ、そうではありませんね」
「……違うのですか」
「はい、いくつか手段がありますので、まずはそちらからやってみようかと……ダメならば、改めて頼ってみますので」
少々張り切っていたらしいフィーヌには申し訳ないが、ここでやり方は説明できない。
一度懺悔室から出て、移動しながら──同時に結界を起動して話を行う。
「……あの部屋には盗聴が仕掛けられていますので、貴女以外には話せませんでした」
「! あそこに、盗聴器が?」
「おそらく魔法によるものでしょうね。ただアレは、貴女の言う上層部によるものでありルリ様の意図したものではないはずです」
うん、そういう性格じゃないし。
彼女が求めれば、求めたモノから勝手に来るのだ……わざわざそんなことせずとも、彼女が困ることなど無い。
「あえて失名神話を知らせるため、あそこで語りましたが……ここからの話は、ルリ様以外には言わないでおいてください」
「……私が貴方の奴隷になったのは、他でもないアズル様の命によるものです。アズル様より託宣が無い限り、貴方に背かないことをここに誓います」
「ええ、信じましょう。では、せっかくですのでフィーヌさんにも聞いてもらいましょうか──私なりの、布教のやり方を」
一つ、確実に知ってもらえる手段があるからな──手段は選ばないと決めている、すぐにでも広めていこう。
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