虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
失名神話 中篇
名を失いし神話──失名神話(仮)。
創造神様を主神として奉り、多くの概念を擬人化……ではなく擬神化した神話。
メジャーな創造神、死神、獣神といったありふれたジャンルから、つい先日遭遇した脱獄神、そして医療神なども含まれている。
少なくとも、彼らを識別するのはその司る概念のみ。
他の神話のように、名前を持ち合わせていないのだ。
「俺に祝福を与えていたのは、自分たちの神格を取り戻すため……か。まあ、:DIY:も貰っているし、全然苦にならないけどさ。具体的に、俺がそれによって背負っているリスクって何なんだ?」
《通常行動における制限はございません。しかし、旦那様が神々と相対した際に、彼らの敵対勢力と自動的に敵対することになるはずです。現状では確認されておりませんが、いずれあり得る可能性として捉えてください》
「創造神様と敵対する相手か……それなら俺にとっても、ある意味敵だな。少なくとも、俺個人の感性だとそう思う」
恩人、いや恩神だからな創造神様は。
もし何かを手伝ってくれと言われれば、全力で応えたくなるぐらいには。
今までだって、理不尽な要求をされたことは一度としてない。
むしろ、俺の願ったことにある程度は対応してくれたぐらいだ。
「だからこそ、創造神様のためになることなら……いくらだって『祈り』を捧げよう」
聖職者系の職業の中には、特定の神を信仰していなければ就けないモノがあった。
基本となる下級職【信徒】に、信仰する神の権能がプラスされる。
たとえば、北欧神話の主神オーディンを崇めれば【天候使徒】、【戦争使徒】、【先読使徒】、【神槍使徒】などなど……冠するものから一部の力を借り受けられるように。
その分だけ、一つひとつの能力の性能が特化している神に劣るが、そもそもの出力が主神レベルかつ一定の信仰がなされている神話なので強大になる。
「俺の場合は、満遍なく失名神話の神々に祈れるようにしておくべきか。“職業系統樹”でも、【使徒】の複数就職はできないし」
前提条件として、【信徒】のレベルはカンストさせておいた。
あとは神像の前で『祈り』を捧げ、提示された条件を満たすことで【使徒】になれる。
そして、その中でも特定の神ではなく神話自体に祈る職業を目指す。
……創造神様だけでなく、死神様たちにも恩はあるからな。
神が『祈り』に応えない場合もあるが、それならそれで諦めがつく。
やるだけやってみるか──目の前にそびえ立つ、神・世界樹を見ながらそう思った。
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