虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
失名神話 前篇
アイスプル 情報室
ある程度聖職者としての徳を積み、次に向かったのは情報室。
そこは『SEBAS』が集めた膨大な量の情報を、検索して確認できる施設だ。
図書館に近いのだが、そもそも情報が本の形に留まっていない。
伝承や口伝、言い伝えといったものの中でも、確証性のあるものなども入っているぞ。
「──神話に関する情報をくれ」
『カシコマリマシタ』
ここに置いている司書ロボットが、必要な情報を検索して用意してくれた。
情報は本型のタブレットを通して確認できるので、気分的には読書感覚だ。
「えっと、必要なのは冒険世界固有の神族の情報だよな…………あれ、おかしいな?」
ページを捲り、知っている神の情報だけでも無いかと調べていく。
だがしかし、出てくるのは北欧神話やギリシャ神話、中国神話に名の在る神たち。
同時に神像の資料も見ていくが、こちらにも探している神々の姿はない。
ページの最後辺りで、アズルやプログレスの名を確認した後……本を閉じる。
「…………神の名前が、無い?」
そういえば、と[ステータス]を確認。
俺がEHOを始めてから、ずっと載っている祝福の一覧──そこに記された、創造神様や死神様の祝福。
「……名前が無いんだよな、これ」
一番最初にチュートリアルで出会った、女神様の名前も◆◆◆◆。
そして、創造神様の名と思われる■■■、どちらも伏字になっている。
てっきり、人族では認識できないとかそういう理屈かと思っていたが。
北欧神話由来のアイテムには、時折神々の名前がしっかりと入っている。
「……どういうことだ?」
《旦那様、これはおそらくの話ですが──》
「それでいい、言ってくれ」
《……彼らは神としての力を、失っている可能性がございます》
その割には、神練とかでだいぶ無茶をしてきた気がしないでもないが……まあ、その説がかなり信憑性を持っていなくもない。
どうして他の、しかも地球にもあるような神話がこちらの世界にあるのかはともかくとして、主神クラスの神々が冒険世界に干渉できるのだ。
それが彼の神々が力を失う前なのか先なのかは分からないが、ともあれ人々が頼ることのできる神々……いや、神話があるからこその問題なのかもしれない。
「名を失いし神々の神話……失名神話とでも仮に呼ぶとしよう。彼らの依頼で神像を彫ったりしていたが、それは彼らの力を取り戻す助力になっていたのか?」
《そうなのではないかと。まずは名より、神としての力を取り戻し、旦那様に祝福を授けることで間接的にですが、さらに神格を高めることになっているように思えます》
実際のところがどうなのか、それはまさに神のみぞ知ることだろう。
…………ということなら、実際に聞くのが早いか。
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