虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖職者への道 後篇



 ただひたすらに祈るだけでは、聖職者として次なるステップには行けない。
 この迷宮にはアンデッドの他にも、もう一種類魔物が出現する。

『…………』

「いちおう確認するけど、【魔王】とは何ら関係ない個体だよな?」

《【魔王】は超常的な確率で誕生した、奇跡的な個体ですので。問題ありません》

「……まあ、こんな場所で生まれたら溜まったもんじゃないよな──“微回復プチヒール”」

 スクロールで獲得していた魔法を行使。
 対象は魔物──人を模倣したドッペルゲンガーへ。

 回復の魔法は魔物にも通用し、生命力が癒える……まあ、そもそも減ってないけど。
 発動後、『SEBAS』に俺では調べられないある数値を訊ね……増加を確認する。

「本当に、ドッペルゲンガーならちゃんとカウントされるんだな」

《変身時はその種族として認識されます。仮にそういった種族などを指定した能力を発動した際、対象から除外されてバレてしまうことを考慮してでしょう》

 とはいえ、破邪とか看破みたいな感じの能力であれば、暴くこともできるらしい。
 そちらはそちらで、スキルレベルやら種族レベルやらでの対抗になるらしいけども。

「それでも、カウントされることに変わりはないわけだしな……バフを掛けた総数が条件というのは、ある意味ソロプレイヤーには厳しい気がしないでも無いが」

《聖職者として徳を積むのであれば、否応なしに大多数の人々の前に出ることになりますので。上位の職を求めるのであれば、それだけ徳を積める場に出れるようになれ、ということでしょう》

「いちおう辻バフとか辻ヒールってのもあるから、頑張れはできなくもないか……まあそれでも、地道にやると時間が長くなるな。でも、ドッペルゲンガーならそれも簡単に無視できるわけだ」

 同一人物へのカウントは、一回ごとにクールタイムを待つ必要がある。
 だが、ドッペルゲンガーの場合、変身で別人になればその問題も解決可能だ。

 予め、どうやったのか『SEBAS』が膨大な量の変身データを用意していた。
 変身の上書きをして、また同じ人物に変身してもカウントはされない。

 つまり百回のカウントが必要なら、百人に変身しなければならない。
 必要な魔力は迷宮が供給するので、重要なのは変身のストック数。

 それを解決してしまったため、俺は本来では極めて困難なソロでの条件達成を一日でできてしまいそうなのだ。

「──“微回復”っと……ふぅ、これで百回だな。これでもまだ、中級職の条件達成でしかないのか」

《上級職になりますと、数だけでなく総回復量や浄化したアンデッドの総レベルなどになりますので、さらに時間が掛かるかと》

「前者がキツイな……“微回復”だと一度に回復させられる数値にも限界があるし」

 まあそれでも、こちらも時間さえあればどうにかできる問題だ。
 時間や金もある……まあ、やることが無くなれば、さらに上を目指してみますか。


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