虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

聖職者への道 中篇



 迷宮 進魔の修練場 死王の聖櫃墓

 そも、聖職者とはどういった存在か。
 字のごとく「神聖な職」、その意味は宗教における導き手……まあ、それを言うと邪教徒は邪職者なのか? とか思うけども。

 ついでに言うと、創作物で定番の贅を貪る悪役系の聖職者。
 悪なのに聖という、わけの分からない矛盾もあるが……こちらも置いておく。

 ともあれ、EHOにおける聖職者とはという問いに対する解は──『神に殉ずる存在か否か』、ということだ。

「まあ、殉職者って言うこともあるらしいからな。時に命を削ろうとも、仕える神の信仰値を上げるために奮闘する……その恩恵こそが聖職者足り得る聖気なわけね」

《いわゆる徳を積むという行為は、EHOの場合業値システムに該当します。神々が自身の加護を授ける選定方法の一つ、それこそが業値なのです》

「有象無象の連中より、業値が逸脱していれば目を付けられるわけね。で、それと同じ要領でアンデッドを倒していけばいいと」

 アンデッド、死体が再び動き出した個体やら真の意味の不死者だったりするが……それらは総じて、負の魔力によって活動を行う者たちのことだ。

 何度も再利用されて澱んだ魔力、『死』が重なった地域で生み出される瘴気、邪な存在が生み出した気配など……さまざまな要因でそれらは世界のどこかに発生する。

 人々が生きる限り、負の魔力を消し去ることはできない。
 現実世界において、かつて産業廃棄物が問題になったのと同じようなもの。

 魔力という便利なエネルギーを扱う代償として、負の魔力は何度でも生成される。
 ──そして、それを清めることこそが聖職者に与えられた使命なのだ。

「死体が散らばる場所だとアンデッドが少ない負の魔力でも蘇えり、無い場所でも何らかの要因で負の魔力が増えれば魔物が発生して殺伐とした環境を生むと。何とかするなら、澱みをどうにかしないといけないわけだ」

 手に小さな十字架を持って、軽く目を閉じて何かに祈った。
 この時、究極的に言えば特定の何かに祈らずとも職業にさえ就けば効果は発揮される。

 職業のシステムがその動作を確認すれば、発動条件を達成したということで『祈り』を媒介とした能力を発動。

 周囲に淡く白い光を生み出すと、それを発動者である俺の周りで展開、維持する。
 アンデッドが触れれば、猛毒にも等しい聖なる魔力が『祈り』によって創られていた。

「浄化すれば浄化するほど、その成果分だけ徳が溜まっていく。神に祈り、行いを評価されれば加護が与えられ、『祈り』にも補正が入るようになる……自分の行いが肯定されるわけだから、聖職者はさらに『祈る』」

 神は祈っている連中の徳ポイント(仮)の一部を貰えるし、聖職者は溜めた徳ポイントで更なる上位職だったり加護をグレードアップしてもらったりと恩恵を受ける。

 聖職者とはつまり、神々かんりにんが処理しきれない負の魔力ヨゴレをどうにかする掃除屋。
 ……そう考えると、かなり俗物的に思えてしまうよな。


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