虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

異神話対戦 その20



 かくして、抜け神こと脱獄神騒動は幕を閉じ、アインヒルドが正式に俺の専属戦乙女になった。

 彼女には引き続き、ここヴァルハラで流通させた『プログレス』の観察、そして一部技術のモニターとなってもらう。

「これからよろしくな、アインヒルド」

「はい、よろしくお願いします……ところでこれから、私は貴方のことどう呼べばよろしいのでしょうか?」

「別に何でもいいぞ、貴方でも『生者』でもご主人でも、好きに呼べばいい」

「では、ご主人にしましょう……名前で呼ばれるのは、控えておきたいのでしょう?」

 いつもいつも、『生者』と名乗ってばかりだしな。
 特に深い意味は無かったが、それはジンリと再開してから意味を持つようになった。

 いずれにせよ、『生者』でバレるのだがそちらは構わない。
 言霊とでも言うべきか、正式な名前を知られることこそが問題だからな。

「ご主人、抜け神の迎えが来たようですよ」

「ってことは、創造神様の神話の神様か。俺は数柱しか知らないけど、いったいどんな神様が……げっ」

「……ご主人?」

「────わっはっはっは! 天知る、地識る、われ記す! 今ここに、精霊神降臨!」

 精霊神、その名が冠している通り精霊を司る神様だ。
 見た目はロリ、そして言動は年配者……いわゆる合法ロリである。

 そして俺は、この神様に一度だけ謁見したことがあった。
 いろいろとあったせいで、俺はなぜか──気に入られている。

「おー、久しぶりじゃのツクルよ。おっと、皆の前では『生者』じゃったな。うむうむ、今日も今日とて死んでいるようじゃな」

「…………え、ええ、相変わらず。精霊神様もお元気そうで」

「かー、そりゃそうじゃよ! 最近は、休人どもが精霊を強く信じておるからのう! 信仰もたっぷり来ておる──それもこれも、すべてお前さんが言った通りじゃな!」

「……我々は知識として、存在自体は認識していますので。そこにご利益さえあれば、大半の者は信じるようになる。私はそれだけしか言っておりませんよ」

 言葉を濁し、話を逸らそうとしたが……ダメだ、逃げきれない。
 もうダメか、このままだと────と思ったその瞬間、天から光が降り注ぐ。

「むっ、これは……! せ、『生者』、われの指輪を出すのじゃ!」

「……これですか?」

「うむ……あとはこれをこうして──受け取るが良い!」

「! これは……!」

「うむ、しっかり着けておくのじゃよ! おのれぇ、あのクソ主神めがぁ──ッ!」

 光がふわふわと精霊神と脱獄神を、ゆっくりと上へ運んでいく。
 ……アレだろう、さながらUFOによるアブダクションを見ているみたいだ。

 そんな中、精霊神が俺の指輪を見ながら何かを投げつけ──それが吸い込まれる。
 いったい何をしたのか、それを聞く暇もなく二柱の神はどこかへ消えていくのだった。


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