虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
異神話対戦 その13
──抜け神、あるいは逸れ神。
神話という集団に属さず、個での活動を始めた神々の総称らしい。
厳密に言ってしまえば、ルリなどの特定の神の信仰をせず現人神になった者もそうだ。
そんな神が今回、北欧神話の領域に侵入して来たらしい。
だがなかなか発見できず、対処に困り……暇そうな男を見つけたと。
「──というわけで、俺と二人で頑張ってその逸れ神を強制送還するのが今回の仕事だ」
「……どうして私まで」
「オーディン様と取引して、終身雇用契約の書類を貰ったから。なお、報酬は前払い」
「…………」
本人は聞こえていないと思っているようだが、[ログ]には『……爺ぃめ』と呟いたのがはっきり残っている。
危機的状況になれば頼れる主神様だが、そうではないときとのギャップがな……。
故にそういった一面を普段から嫌というほど目にする戦乙女からは、そういう認識だ。
ともあれ、俺とアインヒルドで神様相手に最悪戦闘をしなければならない。
集団から抜けた時点で、一時的に弱体化しているらしいが……それでも神は神だ。
「情報によると、第二層ミズガルズで観測されたのを最後に追跡できなくなったらしい」
「では、そこへ潜入して逸れ神を見つければ良いのですか?」
「──いや、サクッと見つけてここに引っ張り出せばいいだけだ」
「……ですから、それをどうすれば良いのかという話でしょう」
アインヒルドがいつものように、訝し気な視線をこちらに向けてくる。
だが、俺も俺でアインヒルドを呼ぶ間にやることは済ませておいた。
「──じゃあ、始めようか」
《種族識別結界を起動──反応アリ》
「よっし、見つけた!」
「……いったい何を?」
事前に飛ばしておいたドローン、それらに取り付けておいたのが種族識別結界だ。
聖獣の住まう大森林に張られた、本来であれば侵入者を拒むための代物。
それを改良し、内部に居る種族の選別ができるようにしておいた。
ドローンがミズガルズを覆い、調べた結果として一人だけ神族の反応だった。
それはつまり、その者こそが逸れ神というわけで……第二段階に移行できる。
「まあ、見てれば分かるさ」
《転移マーカー準備完了。ミニドローンによる装着も成功です》
「あとはこうして、指を鳴らせば……この通り、神様いっちょあがり」
『──ッ!?』
アインヒルドと当の神様、双方が驚いているのが分かった。
あとは捕縛して、オーディンに連絡すればそれで済むのだが……。
しかしまあ、いちおう事情を聴いておいた方が今後のためになるだろう。
……それに、ここまで引きずり込めば、最悪向こうで処理してくれるからな。
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