虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

異神話対戦 その12



 ヘルメス様からの招待状は、俺の代わりに女神プログレスが受け取った。
 まあ、ジョークグッズを持っているので、からかわれるようなことは無いだろう。

「さて、帰りたいんだが……転移の術式はまだ使用できないのか?」

《来る分には可能なようですが、出るためには特定の場所へ向かう必要があるようです。ゆえに彼らも一度部屋から出たのでしょう》

「じゃあ、仕方ないか……って、一度来たこと無い場所だな」

《──検索完了。どうやら、ヴァルハラでも神族のみが入室できる区画のようです》

 巨大な館という体を取っているヴァルハラではあるが、ファンタジーな世界観らしくその広さが尋常ではない。

 なので、まだ行ったことの無い場所は数多くあった。
 そして、今回強引に連れてこられた場所がそれに該当したようだ。

「探検……はまたの機会にしておこう。とりあえず、マーキングだけしておいてくれ」

《畏まりました》

「俺はとりあえず、ここから出ることを優先する。ルート案内を頼む」

 網膜に表示してもらった矢印に従い、転移可能区域へ移動。
 幸い、誰かに絡まれるということもなく、そのまま転移を行えた。

「──はずなんだがな。どうしてまた、似たような場所に来ちまったんだか」

「悪いのぅ、こうなることは視えておったのでな。先に手を打たせてもらった」

「…………」

「なあに、お前さんらが悪いわけじゃない。何と言うんじゃったか、そうそう『釈迦の掌の上』というヤツじゃよ」

 つまり、神に弄ばれたというわけか。
 俺は再び転移先を細工され、今度は北欧神話の主神であるオーディンの場所へ飛ばされていた。

 ……ただ帰りたいだけなのに、どうしてこうも絡まれるのか。
 溜め息を吐きたくなるが、グッと呑み込んで現実と向き合う。

「それで、爺さんの要件は何だ?」

「ふむ、実はのぅ、ちと困ったことがあっての。それをお前さんに解決してもらいたいんじゃよ」

「……神様でもどうにもできないことを、ただでさえ死にやすい俺ができるとでも?」

「できるからこそ、お前さんを呼んだんじゃわい。一つ、やってくれるかのぅ?」

 正直なところ、速攻で帰りたい気持ちしか無いのだが……ここまでして呼ぶのだから、さぞ面倒なことが待っているのだろう。

 だからこそ、それに見合うだけの報酬が用意されていると見た。
 飄々とした爺さんではあるが、その辺はきちんとしている……と思いたい。

「うむうむ、分かっておるよ。報酬の方じゃが──────で、どうじゃ?」

「…………分かっているじゃないか。じゃあそれで」

 結局、断り切れなかった俺はその依頼を引き受けることに。
 ……だが言っておく、絶対に人にやらせるようなことじゃないからな!


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