虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
異神話対戦 その11
ヘラクレスは去り、俺も去ろうとした。
……そうしないと、闘技場の外で待つ英霊たちから決闘の申し込みが殺到しそうだったからだ。
「……ここは?」
「──悪いね、君の転移に少しだけ細工をさせてもらった。闘技場自体に仕込みをしていたから、転移の術式そのものに不備は無かったと思うよ」
「それはご親切に……ヘルメス様」
種明かしまでして、脱出したはずの俺を迎え入れた一柱の神。
旅人のような恰好をした青年、その傍には蛇が絡みつく杖が立てかけられている。
「改めて。ヘルメスと主に呼ばれている、君もそうして呼んでくれて構わない」
「ありがとうございます、ヘルメス様」
「うん、さっそく本題だが──どうだい、ギリシアの世界に来てみないか?」
「……と、言いますと?」
ギリシアの世界というと、やはりオリュンポス山などが連想できるだろう。
まあ、もしかしたら違うかもしれないけども、呼びだされれば行くかもしれないな。
「君のソレ──『プログレス』だったね。人の持つ可能性、それを広げることができる代物。大したものだ、人の身で権能に届きうる新たな概念を生み出したのだからね」
「私一人で成し得たことではありません。何より、偉大なる創造神様の御業を賜ったが故の成果です」
「創造神……うん、彼のことか。あの日以来顔を合わせていなかったけども、やはりそういうことだったんだね。その件も含めて、君とは少し話がしたい。どうだい、いっしょに来ないか?」
俺としては、新たなエリアに脚を踏み入れるというのは大変興味深い。
……しかし、それは無理なんだろうな──なんせ、彼女がやって来た。
「──ではそのお招き、御主人様に代わり私がお受けしてもよろしいでしょうか?」
メイド服姿の女神。
彼女こそ、『プログレス』を司る神にして俺の眷属神──プログレスその人……神だ。
「君は?」
「私はプログレス、創造神様より書状をお持ちしました。いわゆるパシリ、あるいは使者ということになります」
「……なかなかいい配下が居るんだね」
「ええ、自慢の眷属ですよ」
なお、この場で現在純度の高い笑みを浮かべているのはプログレスだけだ。
……笑えない、まったくもって笑えないからな。
「──まあ、今回はそれでよしとしよう。君もそれを指示されてのことなんだね?」
「はい、こうして創造神様より──直接主神様へ届けろとのことです」
「……君も難儀な任務を請け負ったね」
「対策はすでに。ですよね、御主人様」
いやまあ、初期に暇潰しグッズを渡してはいたが……アレ使うの?
なんてことを思っている内に、彼らは俺に挨拶をしてこの場から去っていった。
──手を出さなければ何も問題はない、そう問題ないはずなんだ。
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