虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
異神話対戦 その10
自己(事故)強化によって、跳ね上がった攻撃力がすべてを解決した。
まさに、『力isパワー』な暴論で、ヘラクレスの生み出したヒュドラを討伐する。
……実際の所、数千分の死で強化した能力値ですらヘラクレスには届かないだろう。
向こうは向こうで、本気であっても全力では無かったのだから。
「まっ、この勝負は俺の負けだ。よくぞ、試練を乗り越えてくれた」
「……よろしいので?」
「いいっていいって。それに──いつまでも俺が貸し切ってると、アイツらが何をするのか分からねぇからな」
「……ああ」
闘技場の観客席で、ギラギラと目を光らせるエインヘリヤルとヘーロースたち。
彼らは方向性が違えど、共に戦闘狂な集団だからな。
「んじゃあ、俺は上の連中に報告しなきゃいけないからな。また今度、本気でやろうぜ」
「ええ、全力で戦いましょう」
「……そうなったら、俺はどんなに楽しめることやら」
「期待しても構いませんよ? ここではちょうど、その機会に恵まれていますので。そのときはぜひ、遊びに来てください」
北欧神話では、ラグナロク(定期開催)で全力を出すことができる。
……俺もいちおうゲストなんだが、まあどうせここの連中なら歓迎するだろうし。
ヘラクレスはニヤリと笑った後、そのまま神々の下へ向かった。
そのときこちらを見ずに手を振っていたので、まあ参加してくれるかもな。
「しかしまあ、半神半人の英雄神であの実力とはな……神々はもっと強いんだろう?」
《神族は主に信仰や畏怖によって力を維持しておりますので、格の高い者であればヘラクレスよりも強いでしょう》
「ギリシア神話で言うところの、オリンポス十二神とかそういうところか。逆にマイナーな神なら、俺でも倒せるってことか?」
《旦那様であれば、おそらくは可能かと》
さらっと神殺しができると言われてしまったが、今のところやる予定はない。
……だいぶ前にここでやっている気がしないでも無いが、気にしないでおこう。
「──お疲れ様です」
「おう、アインヒルド。そっちもお疲れ」
「……その名で呼ばないでください」
「悪い悪い。悪いついでにもう一つ、急だがここで帰らせてもらうぞ。なんだか、嫌な予感がしてな」
「予感通りですので、たしかにそうした方が良いでしょう。ここから出れば、間違いなく襲われますよ」
うん、すでに観客席に英霊たちは居ない。
俺が闘技場から出た瞬間を狙い、襲う算段だからだ。
なのでここでそのまま帰還する。
アインヒルドにすべてを押し付けることになるが……うん、詫びは支払っておくか。
「──これは?」
「要望に応えて、改良した“千変宝珠”の術式だ。ルーンにも対応させておいた」
「! この短期間で?」
「八割がた事前に作っておいたんだ。で、今回のお勉強で構想が固まった。あとは暇な時間にサクッとな」
何でもそつなくこなせるアインヒルドに、プレゼントということで。
「ありがとう……ござい──」
「じゃあ、もう行くな。また今度なー!」
「ま……って、何なんですか!」
感謝してくれていたのだが、これは正当な謝礼だからな。
……間違いなくこの後、アインヒルドは大変になるわけだし。
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