虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
異神話対戦 その01
突如ヴァルハラ中に鳴り響いた鐘の音。
どういった意味を持つのか……その答えを俺は持っていなかった。
「これは、来訪の音ですね。どうやら、客神が訪れたようです」
「客人……いや、客神か。こういうことはよくあるのか?」
「多くもなく少なくもなく、と言ったところでしょうか。ある程度周期は定まっていますが、何といっても神々のスケールですので。定期開催されるラグナロクよりは、こうした公式での来訪は少ないですね」
世界の終末と恐れられるラグナロクが定期開催、なんというか笑えないジョークだ。
まあそれでも、言葉から正式ではない来訪であればさらに数が多いと分かる。
そういえば、女神の方のプログレスが北欧神話の神々と話をしたらしいな。
なので、そういった来訪は非公式としてカウントされるのだろう。
「公式での来訪の目的は?」
「会談が主立っての目的ですが、交流試合の方がエインヘリヤルにとっては重要なものとなっています。エインヘリヤル同様、神々に見初められた戦士がどの神話にも居ます」
「……なるほど、そりゃあ盛り上がるわな」
戦闘狂が集まるのがエインヘリヤルだ。
普段は仲間同士で戦っているが、飽きはせずとも新鮮さは失われていく……それが突如としてやって来るのだから大歓迎だろう。
「ところで、今回来た神様はどこの神域の方
なんだ?」
「──ギリシア神話です」
◆ □ ◆ □ ◆
ギリシア神話、またはギリシャ神話。
特に神話に精通していない、ごくごく普通な日本人で思い浮かべられるものとすれば、やはりヤりまくりな天空の主神様だろう。
もう少し知識があれば、十二神とか隠れ神な十三神目が居るとかそういったことまで連想できるかもしれない。
「……アレは、ヘルメス様か?」
北欧神話の主神である、オーディンが対応している青年姿の神様。
蛇が絡みついた杖を持っているので、俺のにわか知識がそう答えを出した。
「ええ。オリュンポス十二神の一柱、神々の伝令使で在らせられるお方です」
「俺には凄さがさっぱり分からんけど、まあ神の力が感じ取れるなら相当凄いことになっているんだろうな」
神の力──神威を凡庸な人族では感じ取ることができない。
戦乙女であるアインヒルドならともかく、普人である俺には無理というわけだ。
ただし、死神様から授かった加護の力で、無知ゆえの死は警鐘によって防げる。
要するに、自分を殺し得る相手であれば知ることができるということ。
ヘルメス様からは、ラグナロク時に感じたオーディンには劣るものの、魔物相手では決して鳴らないほどの大警鐘が響いている。
──さすがは神様、そりゃあ定命の存在と比べちゃいけないってことだな。
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