虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
ルーン研鑽 後篇
ルーン文字の勉強は続く。
まあ、俺には適性が皆無なので、本当に最低限のことしかできないのだけれど。
それでもアインヒルドは真面目に、自身の知り得るルーン文字や魔術に関する知識を授けてくれる。
「──と、このように。同じ『S』であっても“光”や“再生”といった形で異なる方法での発現が可能となるわけです」
「俺の世界の言語……日本語にも同じようなものがあるぞ。読みは同じ、なのに字が違っている。逆に字は同じなのに、読み方や使い方が違うとかな。言語変換の都合上、どう伝わるかは分からないけど」
「大まかには伝わりますよ。その例を用いるのであれば、ルーン文字とはそれらにおける絶対の意味を示します。言語系のスキルを用いようと、ルーン文字であれば等しく同じ文字によって事象が発現します」
要はメラメラと燃える『火』が、『ヒ』や『ファイア』など人によって違う認識になるはずが、ルーン文字の『K』は誰にとっても等しく『カノ』になる……ということか?
なお、『K』であれば『火』だけでなく、『松明』や『腫物』といった意味もある。
そういった事象を起こす際も、そのすべてが『K』一文字で表されるのか。
といった情報を学んでいたのだが、あることが気になった。
アインヒルドならば答えてくれるだろう、とさっそく聞いてみることに。
「俺の世界の知識だと、学んだ二十五文字以外にもルーン文字はあったはずなんだが……癒しのルーンとか助力のルーンとか。あと、エインヘリヤルの連中は身体強化のルーンを刻んでたよな」
「そうですね。前回教えた文字は、あくまでも人族でも扱える文字だけです。魔法で言えば、種族単位で扱える固有魔法のようなものでしょうか。ルーン文字に関する適性だけでなく、別の要素が必要な文字もあります」
「……それって、何でもできる適性があれば使えるか?」
「どうでしょうか。普通なら不可能でしょうが、あらゆる文字を扱える職業もあると耳にしたことがあります。また、神々の恩恵があれば扱えるようになる文字もありますので、決して無理とは言い切れませんね」
脳裏に浮かぶのは、どんなことでも容易にこなす『騎士王』の姿。
当初からここの関係者っぽい『天死』と繋がりがあったし、もしかしたら……。
まあ、俺は俺なりのやり方で扱えるように努力してみよう。
自分自身で使えずとも、応用すればできることもあるからな。
「──さて、私の知り得る限りの知識は授けましたが。満足いただけましたか?」
「ああ、助かったよアインヒルド」
「……だから、アインヒルドと──」
呼ばないでください、そう届くはずだった声は警鐘によって掻き消された。
脳裏で鳴る加護によるものではなく、物理的な音──ヴァルハラに何かあったのか?
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