虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ルーン研鑽 中篇
個人戦闘場
ルーン文字とそれを用いた術を再度学ぶため、ヴァルハラを訪れる。
専属戦乙女のアインヒルドに迎えられ、そのまま教わることになった。
ヴァルハラは基本、神々からの評価で得られるポイントで何でもできる。
今回はアインヒルドのポイントで、個人使用ができる舞台をレンタルした。
……紙切れ一枚の契約でも、いちおうは主従関係だからな。
彼女のポイントを俺が私的に利用しても、八割ぐらいまでだったら許されるそうだ。
「──ルーン文字、それは真理であり神秘です。一つひとつの文字が異なる意味を持ち、一文字のみで世界を改変できます」
「まあ、たしかに。俺の世界の言語じゃ、一文字で何かを示すのは難しいな」
日本語だと、『火』とか『木』などと割と多いが、ルーン文字が用いられる西洋圏であれば分かるだろう。
言葉を飾る、それは自己の認識を他へと示すための行いだ。
より多く飾れば飾るほど良いわけでは無いが、短すぎれば何も伝わらなくなる。
「たとえば──“火”。魔法では詠唱が必要となりますが、ルーン文字を用いればただ一筆『K』と書くだけで火が生まれます」
「面倒な過程が省略できるわけだ。だが、それだと誰でも使えるだろう? それって、危険じゃないか?」
「ルーン文字を扱うには、適性を必要としますので。戦乙女やエインヘリヤルには備わっていますが、貴方には……どうでしょう」
「そうか、適性云々があるなら問題はないのか──“火”」
アインヒルドと同じように、『K』を描くとそこに火が生まれた。
まあ、一度習った時はまだ使えなかったからな……これもすべて【試験職】のお陰だ。
「昔と違って、今の俺はとりあえず何でもできるんだ。その代わり性能が尋常じゃなく低いが、理論上あらゆる適性を持ち合わせていると思ってくれ」
「たしかに……とても小さいですね」
「0を1にするだけで、押し上げたりはしてくれないからな。やるにしても、魔力で強引に押し上げるのが精いっぱいだ」
条件を満たし、ルーンによる魔術を扱う職業に就けば、補正が入るかもしれないが。
現状、魔力関係の職業はそこまで解放されていない……スキルの所持が条件だからだ。
「その大きさですと、単語や節は難しいかもしれませんね。基本は二十五文字で構成されるルーン魔術ですが、組み合わせることで飛躍的に性能が上がります。ですが、“火”の威力から察するに……」
「まあ、とりあえず今回は勉強をしたいってことで。分かる範囲で教えてくれ」
「……分かりました。では、まずは文字の意味について──」
適正さえあれば、書くだけで術自体は発動するからな。
さすがに『騎士王』レベルは求めないが、魔法っぽいことはしたくなるんです。
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