虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ルーン研鑽 前篇



 天上世界 ヴァルハラ

 異層の空にあるそこは、各世界へと繋がる神域。
 北欧神話に基づいて構築され、日夜導かれた英霊たちが闘争を繰り広げている。

 今回もまた、訪れた俺を迎え入れてくれるのは一人の戦乙女。
 何の縁か、彼女には俺の専属戦乙女という役割が与えられている。

「よう、アインヒルド」

「……なんですか」

「その名前も、だいぶ慣れたみたいだな」

「! か、勘違いしないでください! どれだけ否定しても、誰も笑うだけでめようとしないからです!」

 ……だいぶ参っているみたいだな。
 第一回のラグナロク以降に誕生した戦乙女には、最初から決まった名前が無い。

 神様が決めることが多いのだが、英霊にその権利が下賜されることがある。
 それと同じ理屈で、俺にもアインヒルドの名前を決める権利が回ってきた。

 なのでそう名付けたが、方法が他とは違い借用書みたいなものだったからな。
 正規の方法である試練を達成したわけでもないので、本人は否定しているわけだ。

「……コホンッ。それで、今回はどういった御用で?」

「ルーン文字について、いろいろと学ばせてもらいたくてな。北欧神話、それかケルト神話の世界で学べればと思ったんだが……たしか、アインヒルドも使えたよな?」

「たしかに使えはしますが……やはり、専門家には劣っていますよ。今回はその紹介、ということでよろしいですか?」

「…………いや、まずは基礎からしっかり学びたい。まあ、特殊な方法で一度聞けばだいたい理解できるから、アインヒルドが知りうる範囲で基礎を教えてくれ」

 ルーン文字は書くだけで効果を発動する。
 文字自体は現実でも残っているので、だいぶ前に特級会員の『印』にも資料を纏めて渡すことができた。

 しかし、こちらの世界には現実で知られている以上のルーン文字に関する情報がある。
 一通り学んだ時よりも、今回はより複雑な情報を知れればいいな……という所存だ。

 俺が覚えられずとも、『SEBAS』が聞いた情報すべてを記録してくれる。
 なので俺は、最悪ただその場に居るだけで情報が勝手に集まってくるわけだ。

「分かりました。では、まずは……場所を変えましょうか」

「ああ、まあ空いている場所ならどこでもいいと思うけど」

「そういうわけにはいきません……人目に付かない場所でなければ、いったいどれだけからかわれるのやら」

 ……本当に、苦労しているんだな。
 アインヒルドと呼んでいる俺が一番の原因ではあるが、もう少し優しくして挙げた方がいいのかなぁと思わなくもないよ。


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