虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
WITH仙王 その13
嗚呼、俺は命運の女神様に祈った。
おそらく起きるであろう超強力な個体の出現、それがせめて最下層かこの迷宮入り口で出現してくれと。
だが、忘れてはいけなかった。
俺はルリと夫婦として結ばれてもなお、それなりの不幸に見舞われていることに……要するに、程よい不幸は起きる。
《──旦那様、下層にてリストの魔物が生成されました》
「……上層じゃないだけマシか。仙人の精鋭たち、彼らはどうなっている?」
《蘇生薬こそ使用していませんが、魄癒薬が必要になる重傷を負っていました》
魄癒薬とは蘇生薬には及ばずとも、体の欠損をどうにかできるレベルで回復可能なポーションである。
つまり、そこまで手酷いダメージを追わせるほどの魔物が出現したわけか……。
リストで見た魔物は、どいつもこいつもその位階が10~12──普通は遭遇=死。
最上位職、あるいは特殊な権能や特典アイテムを持つ者が複数人居なければ、犠牲者ゼロで勝つことは不可能と呼べる強さだ。
「『闘仙』と【仙王】は?」
《向かっているようですが、同時に及ばずとも強力な魔物が多数出現したようです》
「足止め目的か……いちおう確認するが、その出現したヤバいヤツは?」
《こちらとなります》
網膜に表示された映像は、下層の光景を人形が撮影しているものだろう。
褐色のライオン、ただし所々に真っ赤な斑点が残る──血に染まった獅子。
リストには、血を浴びれば浴びるほど強くなる個体──『血染獅子』と書かれていた。
初期から強く、そのうえでさらに強くなるので厄介極まりないんだとか。
「このライオンが来たか……もしかしたら、死人が出ていなかったのは、意図して出血を促していたのかもな。迷宮産の魔物だからそこまで知恵があるか分からんが、人は造血剤とかも作ってきたわけだし」
《いずれは、そのような考えにも至ったかもしれません。迷宮の外、そして■■因子を獲得すればその確率はさらに高くなります》
「そうしたらもうネームド、もしくはユニーク種だけどな。さて、時間を稼げば二人のどちらかが間に合うか。じゃあ、俺が──」
転移して時間を稼ごう、そういい終える前に待ったをかける声が。
「お待ちください。その任、私にお任せいただけないでしょうか?」
「……エクリか。理由は?」
「創者様が赴くまでもなく、私の力で充分だと判断したからです。もちろん、創者様が望むのであれば、この身を捧げることも厭いません。ですので、御身をなるべく大切にされてください」
「体を大切にねぇ…………まあ、せっかくエクリがやってくれるって言うなら、それで構わないか。よし、憑依なんて野暮なことはしないから、時間稼ぎだけやってくれ」
俺の方は、『闘仙』と【仙王】に連絡を入れておけばいいか。
かつての宴で出したし、仙人特有の感覚でその気配は覚えてくれたはずだ。
あとは……うん、『別に倒してしまっても構わないのだろう』みたいな空気を漂わせているエクリに注意をするだけだな。
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