虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

WITH仙王 その12



 森の民まものではないアイスプルの住民たちも、それぞれなんだかんだ準備を整えていた。
 その姿に不安感は無かったのだが……俺の勘は、何か起きることを警告している。

「まあ、起きてからなんとかするってのもアリだけど、とりあえず考察ぐらいはしておいた方がいいか。『SEBAS』、各層における魔物の発生率はどうなっている?」

《──現状、事前に改変した数以上の魔物は出現しておりません。最下層に限り、かなりの位階の個体が出ているようですが……それらは『闘仙』と【仙王】が倒しています》

「まあ、最高戦略だしな。こことそこ、二つで大多数を請け負っているわけだが……どこにも問題が無いってのは、俺の思い過ごしなだけだったってことなんだろうか」

《いえ、間違いなく何かあるでしょう。それが何なのか、導き出すのが私の仕事です》

 嬉しいことを言ってくれる『SEBAS』に、なんだか涙がホロリ。
 しばらくじっくり調査をしてもらうと、何やら判明した模様。

《──たしかに変化はございません。ですがそのこと自体に、問題があるようです》

「問題…………あっ、難易度の向上か!」

《さすがは旦那様、御明察です。本来、進行度に応じて、魔物の位階も向上するはず。しかし、実際には──》

「何も変わっていない……なるほど、それが意味するところは?」

 そりゃあ、何も無い方が安心である。
 実際、その影響か死傷者なども今はまだ出ていなかったようだし。

 しかし、これが戦略ゲーであった場合、兵士ユニットのコストを節約し、溜めた分がどうなっているのか……間違いなく、いい方向には向かわないはずだ。

《召喚できる魔物には、本来制限が課せられております。しかし、暴走時はそれらが制御できない代わりに召喚が可能となります。リストは開示できますが……表示しますか?》

「いちおう頼む。うん、これは……名前からして強力そうな魔物ばかりだな。これを、仙人たちだけで討伐できるのか?」

《可能でしょう。しかし、問題はその数……また、出現場所が被害の深刻さを分けるはずです》

 俺のような強引さな手段でもなければ、迷宮内の転移はできなくなっている。
 なので、もし上層でそんな強力な個体が出現すれば……被害は相当だろう。

 もちろん、俺も蘇生薬を全力でばら撒くので死ぬことは無い。
 しかし、死んだという経験は仙人関係者に与えられるので……可能な限り避けたいな。

「まあ、一ヵ所だけなら俺が転移して対応すればいいんだが……さて、どうなるのやら」

 何でも絶対は存在しない。
 今の俺にできることは……そうならないように、命運の女神様ルリに祈ることぐらいだ。


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