虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

WITH仙王 その09



 迷宮の調整を『SEBAS』がこっそりしたお陰で、難易度は格段に下がった。
 各層の仙人関係者への連絡も、【仙王】の尊い犠牲もあってすぐに済んだ。

「さて、俺も俺でやらないとな……ここを独りで守り抜くぞ」

 俺が担当するのは迷宮の入り口で。
 つまり、仙郷へ向かうための第一歩となる登山口だ。

 仙人関係者たちが逃してしまった魔物、そのすべてが俺の駆除対象。
 なお、入り口にいるものの、それ以外の場所から抜け出してきた個体も屠る予定だ。

「そうだな……ああ、ちょうどアレがあったな──『星域』を展開せよ」

《仰せのままに》

 それは、俺の管理する世界アイスプルの環境を別世界に持ち込むための神代魔道具。
 その力によって、俺の周囲は一時的に冒険世界でありアイスプルとなった。

「召喚陣を設営、そして召喚──風兎クローチル

『ここは……どういうことだ?』

「悪い、ちょっと連絡係を頼みたい」

『それならば、呼ばずともできるだろう……がしかし、状況は理解できた。迷宮、そしてこの乱れ。なるほど、発散の機会を用意したというわけだな』

 一時的に呼び出したのは、元森獣にしてアイスプルではもはや代表者として挙げられつつある星獣の風兎。

 頼みたかった内容は、言わずともすべて周囲を見て察してくれたらしい。
 さすがは、森の民たちからも『お母さん』と時折呼ばれていただけのことはある。

『……おかしなことを考えているな』

「いやいや、そんなまさか」

『…………まあいい。それで、どのように伝えれば良いのだ?』

「民たちは暴れたい奴限定。で──カエン、エクリ、カルル、銀花、縁寄にはこっちに来てくれって。たまには外の空気を吸わせてやりたい、ついでに別の世界を見せてやりたいヤツも混ざっているな」

 かつて風兎が治めていた森の民は、誰も彼もが強力な存在なので……まあ、覚悟がある奴には来てもらえば助かる。

 そして、名指してで指定した者たちは……いろいろと複雑だな。
 俺が製作者だったり、製作者からパクったり、捕虜として永久的に預かったり……。

 まあ何はともあれ、今では立派な仲良し連中ではある。
 彼らの実力はバラバラなので、一部の者には護衛に回ってもらう予定だ。

『分かった。すぐに伝えよう』

「任せたぞ。じゃあ、『SEBAS』」

《畏まりました──召還を実行します》

 呼んだ後、ちゃんと送り返すこともできるよう術式に刻んである。
 ……これがあれば、とりあえずピンチの場合にも送還することで対応できるからな。


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