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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

WITH仙王 その03



 当然ながら、『闘仙』は怠ける【仙王】を許しはしないようだ。
 構えを取り、手抜きではあるが拳を当てようとし──

「っ……」

「ふっふっふ、ツクルがくれたこれのお陰だよ。あーっはっは、ローの攻撃など本気じゃない限り効かん! そして、本気でやったらここがどうなるか……分かっているよね」

 ──『ゲートコネクター』。
 空間に穴を開け、そこから自由自在に収納した物を取り出すことができる能力。

 応用として【仙王】は、そこに仙術の源である仙丹を大量に仕舞っていた。
 それにより、いついかなる時でも高位の仙術を使えるようにしている。

 だが、そんな仙丹を排出できる穴を開ける数は、これまで最高でも二つだった・・・
 それもWITHシステムによって改善、無数の穴から得られる供給で仙術を発動。

 もちろん、『闘仙』が本気を出せばいとも簡単に壊せるであろう防御の仙術。
 しかし、天才は嫌らしく工夫を凝らし、周りに被害が及ぶレベルの強度にしていた。

「……『生者』」

「そう……ですね、少しばかりお手伝いをしましょうか」

「えー、ツクルもやるのー? 止めた方がいいんじゃないかなー? ほら、ツクルって弱いしー、これがあれば……二人だって同時に対処できるもんねー」

 あー、『闘仙』の堪忍袋の緒が切れた音が聞こえたような……。
 俺にできるのは【仙王】の攻撃ではなく、あくまでもこの場所の保持である。

「非殺傷結界展開──“星護結界”」

 星鉱で創られた頭環によって、辺り一帯に構築される非殺傷結界。
 これはコロシアムで用いられる代物で、内部における結果を無かったことにできる。

「この内部であれば、どれだけ暴れても影響が現実に作用することはありません。では、どうぞご自由に」

「……ということらしい。ワン、準備はもういいだろうか」

「………………ちょ、ちょっと待って! ズルい、ズルいよツクルに頼るなんて!! ほら、リーシー、アタシを助け──」

「リーシーさん。こちらで手を打っていただけないでしょうか?」

 根回しはしっかりとしておく。
 リーシーは【仙王】の従者だが、絶対に言うことを聞くわけではなく、あくまでも正しい方に従ってくれる。

 そのうえで、賄賂ニンジンを贈った方には天秤が傾きやすくなるのだ。
 ……というわけで、追加でプレゼントをすると快く【仙王】を無視してくれた。

「う、裏切り者ー!」

「お許しください、【仙王】様。これもすべては、貴女様のため……」

「嘘吐け! なら置け、その嬉しそうに抱き締めている人参を置けー!!」

「…………(プイッ)」

 そんなこんなで、【仙王】の末路は今ここに定められる。
 引き攣った笑みを浮かべ、抗いようのない運命に挑むのだった。


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