虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
巫女談(01)
つい先日まで、敵対勢力との戦いが……ということで警戒態勢にあった隠れ里。
それも終わり、その勢力との停戦協定が成立し──里に活気が溢れかえっていた。
そんな里の最重要区画、社にて話すのは代表者である巫女──否、コミこと孤魅童子。
そして今や、彼女の護衛長に位置している千苦だった。
「……ツクルは帰ったか」
「そのようですね。孤魅童子様、ある程度は奴から聞いておりますが……」
「うむ、その予想は正しい。あの場はツクルが上手く濁してくれたようじゃが、その程度で済むほど父上も母上も甘くは無い。時期とやらも、そう長くは無いはずじゃ」
「朱音様はともかく、侵羅童子様は間違いありません……むしろ、奴はどのようにしてその場を切り抜けたのやら」
何度も死に、活路を切り開く。
観ていたコミ、そしてこれまでの行いから千苦もやったこと自体は理解している。
だが、できるからと言ってそれを成し遂げられるかどうかはまた別のこと。
話に聞く苦戦よりも、身近な体験の方が認識はしやすい。
彼らにとって侵羅童子は最強の存在。
森羅万象すらも捻じ伏せ、多くの陰陽師を屠ってきた物ノ怪の頭領。
そんな相手に心を折られることなく、あまつさえ反撃までしてきたという事実。
ただ死んでも死なないだけの権能では、成し得ないであろうことだった。
「ツクルと親交を深めることができたのは、幸いじゃったな。それも千苦、すべてはお主のお陰じゃったか」
「いえ、忌々しい話ですが陰陽師どもが紡いだ縁です。封印されていなければ、奴と会うことは無かったでしょうので」
「そうか……いずれ、現代の『陰陽師』とも相対する必要があるかもしれないのじゃ」
「孤魅童子様、それは……!」
物ノ怪と怪ノ物、彼の二種族は性質の違いから袂を別った存在だ。
その違いを認め合い、今回の停戦……そして和平へ繋がる道はできた。
しかし、彼らと陰陽師との関係は劣悪、それもかなり最悪の分類である。
かつて何度も殺し合い、築き上げられた屍の山は血の河を生むほど。
大半の陰陽師は彼らを駆除対象としか捉えておらず、会話をすることすら困難。
その認識は彼らにとっても同じこと、見つけ次第殺すことが常識となるほどだ。
「……そうじゃな。並大抵の方法、そして時間では無理じゃろう。それでも、ツクルであれば……そう期待してしまうのじゃ」
「いくら奴でも、それは…………」
「な? 絶対に不可能では無い、それだけで充分なのじゃ。私に目覚めた『ぷろぐれす』のように、可能性が芽吹くことに意味があるのじゃからな」
どれだけ厳しい道であろうと、孤魅童子が諦めることは無い。
そこに里の者たちの幸福がある限り、消えない信念を小さな体に宿しているのだから。
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