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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

物ノ怪本家 その10



 ──人をダメにするクッションは、物ノ怪が相手でも効果的だったようで……。

 脱出のため隔離されていたコミは、特殊な空間での待機を余儀なくされていた。
 暇であろう彼女のために、クッションを用意していたのだが……うん、人気だな。

「コミ」

「な、なんじゃ?」

「……そのクッション、複数買うならお安くしておくぞ」

「…………その話、詳しくするのじゃ」

 なんて取引をしていれば、俺たち……というかコミに気づいた民衆が集まってくる。
 その光景を誰にも呼び止められずに見ていた俺だが……そこに一人、もとい一鬼来た。

「約束は、果たしたぞ」

「……当然だ。それよりも、何も無かっただろうな?」

「親父さんがブチ切れ、奥さんは中立って感じだったな。で、コミを回収して逃げようとしたら親父さんが俺の頭を握り潰して、ゴリゴリのメタ……対策をして相打ち覚悟まで追い込んだら、奥さんが止めてくれたんだ」

「…………わけが分からん。が、その対策とやらはよく分かるな。今の貴様からは、忌々しいと思えるナニカを感じるからな」

 その真っ黒な鬼──千苦が感じ取った不快感の正体は、二つの[称号]の効果。
 俺の攻撃特攻と鬼族の弱体化、それらを感覚的に察知したのだろう。

 言われてそのままだったことを思い出し、すぐに適当な[称号]に変えてもらった。
 千苦もそれが分かったのか、心なしか緊張が僅かながらに緩んだ気がする。

「まあ、ともかく。今回の呼び出しが、そのまま戦争に……ってことは無い。もう一度、今度はコミ自身のタイミングで窺うって言っておいたから、それが長引かなきゃちゃんと待ってくれるだろう」

「そうか。ならば、そのときは俺も孤魅童子様に同行しようではないか」

「おうおう、そうしとけ。正直、俺が居なくてもコミなら自分でなんとかできていただろうし。真っ当な方法でやるなら、真っ当な護衛の方がいいだろう」

「何を言っている。無論、貴様も同行するに決まっておる。聞くだけでも恐ろしいことを侵羅童子様や朱音様に告げているのだ、その責任を取る者を常駐させねばなるまい」

 そう語る千苦の瞳は……マジだった。
 俺、いわゆる人身御供にされてしまうようです。

「コ、コミがそんなこと言うならまあ、受け入れなくもないけど」

「……肯定的に受け入れる辺り、貴様は本当に人外の類いなのだな」

「命の価値は対等じゃないからな。特に、俺みたいなヤツは。まっ、そうならないように振る舞うさ」

 実際、家族のためなら大半のことはやるつもりである。
 愛する妻や子供よりも重要なことは、少なくともこの世界には無いからな。


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