虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
物ノ怪本家 その09
コミの父親とデスマッチを繰り広げていたら、母親に両者共々水を吹っ掛けられた。
お陰でブチ切れモードだった侵羅童子も、その目に僅かながらの理性を宿す。
「このままやってもあの娘は戻らない。それは貴方がよく理解しているはずでしょう?」
「…………」
「えっと、『生者』さん、でしたわね? うちの娘をよろしくお願いしますね」
「……私が何もせずとも、彼女は立派に里の代表者です。里の者たちが、彼女の力になるでしょう」
やはり、母親はコミをちゃんと見てたか。
少なくとも凝り固まった物ノ怪の感性ではなく、子供の覚悟が本物なのか……そして、それを支えられる者が居るかを量っていた。
彼女のお眼鏡に適った……のだと良いのだけれど、とりあえず止めてくれるぐらいには信用してもらえたのかもしれない。
とはいえ、俺ができることなどアイテムによる支援ぐらいである。
それらを使い彼女を支えるのは、彼女が守る民たち自身の方がいいだろう。
「……では、もう帰っても?」
「あら、それはまた別の話よ。見ての通り、異議のある方がたくさん居るじゃない」
「そうでしたか……ですが、長居は無用ですので。いずれ正式な形で、こちらから訪れると。最後に、お伝えしておきます」
通常の方法で転移はできない。
だが、普通の方法ではない──それこそ、最高の魔術使いが編んだ特殊な術式ならば?
新たに作ってもらった三つの術式。
その一つ、それを『愚者の石』から発動。
「では、おさらばを──“非常門扉”」
『──ッ!?』
「……やられたわね」
中身に関してはお任せしたのだが、なかなかいい物をくれた『騎士王』。
どれだけ阻害をしていようと、事前に阻害領域外に転移座標を仕込むだけで発動可能。
なので『ポイントシャッフル』で使おうとしていた座標に、このまま転移できる。
なぜ突破できるのか、そこは意味不明なのだが……うん、解析待ちだ。
◆ □ ◆ □ ◆
鳥居の里
余談だが、逃亡先の座標は里ではない。
便利な能力だからこそ、能力圏内がそれなりに狭いのだ……魔力が潤沢にあっても、さすがに無理な物は無理だった。
まずはドローンで把握した都の外、そしてそこから転移装置(鞘)で脱出したのだ。
「一発での転移はまあ、持ち主の成長に期待しておくとして……“アウトプット”」
手を直角にして、宝石型の装置を翳す。
能力が発動すると、“インプット”時の事象を遡るように光の粒子が溢れ出る。
そして、居なくなったはずのコミが里に現れる──人をダメにするソファでまったりしながら。
「…………」
「……。っ、も、もうであったか」
暇にならないように用意したんだが……これはもう、新しいユーザーが増えたな。
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